しかも、ほかの中華チェーンでは、あじたまや杏仁豆腐は外部から仕入れることが多いが、福しんはすべて手づくりだ。外食チェーンにとって、無料のメニュー(クーポン使用時、通常は有料)に手間暇をかけるのは経営的に非効率である。
従業員にとっても、あじたまを仕込むためにゆで卵の殻を100個むくのは大変な作業となる。それでも、福しんはすべて自分たちで仕込むことにこだわり、そのため、あじたまの味が毎日少しずつ違うなどのズレが生じることも許容している。
アルバイトから昇格する社員がほとんど!
いくら経営方針が「地元密着」「家族的」とはいえ、なぜここまでやる必要があるのか。効率化やコスト削減は本来、企業にとって極めて重要な課題のはずだ。その理由は、福しんという中華チェーンが、いい意味で「ユルい」からではないだろうか。
例えば、東武東上線の東武練馬駅に、福しんの「おともラーメン」と同じシステムのメニューを揃えた「手もみラーメン ジロー」という店舗がある。青色の看板といい、一見すると「福しんをパクったのではないか」と思うほどそっくりだ。
「ジローさんはうちの会長が指導した店舗で、食材の一部はうちの工場から仕入れています。フランチャイズとまではいきませんが、親戚のような店舗ですね。会長は、ほかにもいくつかの店に関わってきましたが、その店舗を辞めた人が現在福しんで働いていたり、倒産した業者の方がうちの工場で働いたり、辞めた従業員が戻ってくるケースもあります」(同)
外食チェーンは、長時間労働やサービス残業が大きな問題になるなど、「ブラック」とされるところも少なくない。辞めた従業員が戻ってくるのも、それを受け入れるのも、ほかの外食チェーンでは考えられないことだろう。
「遅刻が多くて辞めた従業員でも受け入れます。もしかしたら人間的に変わっているかもしれないじゃないですか。まぁ、変わっていないケースが大半ですが(笑)。
昇格や昇給も同じ考え方で、ずっと店長をやり続けて疲れたら、役職のない店員に戻ってもいい。やる気になったら、再び店長に昇格させます。こうした雰囲気が従業員にとっては居心地がいいようで、身内を紹介してくれる従業員も多いです。3代にわたって働いている者もいます」(同)
そもそも、福しんではアルバイトから社員になる人がほとんどで、坂之上氏自身、最初はアルバイト店員だった。そのため、従業員の学歴はもちろん、国籍などによる格差も差別も存在しない。