4月に発生した熊本地震で被災された方に、心よりお見舞い申し上げます。
この地震を目の当たりにして、地震や水害、台風などの自然災害はいつ誰の身にも起こり得ることだと改めて痛感している方も多いだろう。そこで今回は、非常食対策について栄養面を含めて考えてみたい。
乾パンの味に隠された意外な工夫
非常時の持出袋に入れておく食品として最もポピュラーなのは、水と乾パンだが、軍用食から発展した乾パンの歴史は150年近くあり、たびたび改良が加えられて今に至る。小さく、エネルギー量が高く、衝撃に強く、保存性が高いなどの特徴に加え、長く食べても飽きないように、乾パン単体で美味しくて食べ過ぎてしまうことがないようにといった点まで考慮して開発されている。
乾パンの味を物足りなく思う人も多いと思うが、ちょっと物足りないあの味も、実は計算された味なのだ。
また、乾パンの缶の中の氷砂糖や飴は、唾液の分泌を促進し、パサつく乾パンを食べやすくするために入れられている。
乾パンの代わりになるものは?
とはいえ、非常時こそ食べ慣れた好きな味のものを食べたいという要望もあるだろう。最近では「ビスコ」(グリコ)や、「ペコちゃんのサクサクビスケット」(不二家)など、お馴染みの味のビスケット類にも5年長期保存できる、非常食対応のものが発売されている。
乾パンの100グラムあたりのエネルギー量は約400キロカロリーだが、これは瓦せんべいやあられなどの菓子類とほぼ同等。アーモンド入りの「南部せんべい」などはビタミンやミネラルなどの成分も乾パンに近い。
乾パンは長期保存をするために油脂類があまり含まれていないが、バターやチョコレートなどが入ったクッキー類や、チョコレートバーなどは100グラムあたり500~600キロカロリーと非常にエネルギー量が高く、非常時にエネルギー補給をするには優れた食品になる。日持ちが長いもので半年程度になるが、こまめに持出袋を点検できる場合は、好みのビスケット類やチョコレートバーなどのハイカロリーな食品を入れておくのも良いだろう。
持出袋に用意しておきたいサプリメント
避難生活などで支給される食品は、おにぎりやパンなど炭水化物中心の食品に偏りやすい。炭水化物が主体で、生鮮食品が手に入りにくい状況下では、炭水化物を代謝するビタミンB1や、ビタミンCが不足する。ビタミンB1をはじめとするビタミンB群やビタミンCは体内に蓄積されないので、毎日補給する必要があるビタミンだ。
また、非常時には精神的、肉体的なストレスによってもビタミンの消費が激しくなるので、代謝を円滑にし、精神的な健康を保つためにマルチビタミンのサプリメントを持出袋に用意しておきたい。
この他、避難生活下では全身の健康状態を左右する腸内環境も悪化しやすくなるので、乳酸菌サプリメントもあると心強い。普段の生活では不足しにくいビタミンも避難生活では不足するので、食品だけでなくサプリメントも合わせて準備をしておくことをおすすめしたい。
在宅避難する場合に忘れがちなもの
災害が起こった場合、自宅で在宅避難生活をする場合に備えて食品や水を備蓄している人でも、意外に忘れがちな盲点がある。
備蓄食品のほかに絶対用意しておきたいものは、給水車から水を受ける大きなポリ容器や、その水を運ぶ台車などだ。これまで起こった地震などの災害発生後、給水車は比較的早く現場に駆けつけている。しかしその際に、水を入れる容器や、運ぶ手段がないと、せっかく給水車が来ても効率的に水を持ち帰ることができない。自宅に水を備蓄している人は多いと思うが、給水車用の対策も忘れず行いたい。
自然災害は避けようがないが、これまでの災害から学び、災害状況下でも健康を損なわず乗りきれるよう、自分の健康状態に合わせた防災の備えをしていこう。
(文=安中千絵/管理栄養士、フードコーディネーター)