突然起こった驚きの発表
「まさか、この時期に、こんな決断を下すとは」――。
燃料電池車の開発に長年携わってきた人のなかから、日産自動車が発表した新しい燃料電池車に対する驚きの声が上がっている。
日産は6月14日、車体のなかに貯蔵したバイオエタノールを燃料とする燃料電池車「e-Bio Fuel-Cell」を発表した。バイオエタノールを車内で改質することで発生する水素によって、燃料電池で発電する。その燃料電池には、すでに量産されているトヨタ自動車「MIRAI」やホンダ「クラリティ Fuel Cell」が使うPEFC(固体高分子形燃料電池)と比べて、より高温で高い発電効率を得ることができるSOFC(固体酸化物形燃料電池)を搭載する。また、燃料となるバイオエタノールは純度100%、またはエタノールと水をそれぞれ50%混合させた溶液で対応する。
このシステムを搭載した車両を、日産は2017年までに量産。それに伴い、これまで開発してきた水素を燃料とするPEFCの開発を凍結するという。
だが、e-Bioについて、技術系のメディアや自動車専門メディアの多くが「SOFCを車載用で量産するのは世界初」として絶賛する一方、業界の一部からは日産の決断に対して疑問の声が聞こえてくる。なぜなら、日産の新しい方式では、水素ステーションが不要だからだ。
フェーズ1で失速しかねない
政府は14年4月、新しい「エネルギー基本計画」を閣議決定した。そのなかで「水素社会の実現に向けた取り組みの加速」を明記し、これに伴い同年6月、経済産業省・資源エネルギー庁は「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を発表。そのなかで、普及に向けたキックオフとなる期間をフェーズ1とし、運輸部門の柱として燃料電池車の積極的な普及を強調した。
そのロードマップは、16年3月に改訂されたばかり。具体的な目標として、燃料電池車を20年までに4万台程度、25年までに20万台程度、そして30年までに80万台程度という販売台数を掲げた。