「また、アパレルの経営破綻か!」
5月15日のレナウンに関する報道では、そのような感情を持った方も多かったのではないだろうか。その経緯には各種の見解が出ているが、お客様の感情、習慣の変化に、会社やブランドの判断や動きが遅れ、ズレたのが原因だろう。これは他のケースにも共通すると筆者は考える。
コロナウイルスの影響は中期でも続くだろうし、アパレルも未経験の現実に出会う。というか、これは当たり前の話で、「マスク」「防護服」「巣ごもり服」「Zoom映えするジャケット」など、お客様の思いやニーズを見ながら、自分たちで良さを発揮できることが長く続く企業の必須条件だ。逆をいえば、保有する不動産を処分したり早期退職を実施しても、そこには限界がある。
では、今後のアパレル業界はどうなるのか。コロナ禍を少し先に経験している中国の実情から考えるのも一つの方法かもしれない。そこで筆者が日頃から一緒に仕事をしている北京在住のタクさん(女性)から、ここ数カ月の生活について教えてもらった。
コロナ閉鎖前後での北京の日常変化
初めまして、タクです。渋谷区代々木にある文化ファッション大学院大学出身で、中国のファッションコンサルティング業でがんばらせていただいています。このコロナ危機で、仕事も生活も大きく影響を受けていますので、その情報を日本にいる皆さんと共有させていただいて、ご参考になれば、とてもうれしいです。
コロナ以前は、自分のクライアントが全国に点在しているので、出張がとても頻繁でした。主人が国の出版社に勤めているので、同じようにとても多忙でした。6歳の息子が優秀な公立校に進学できるように、郊外の高級マンションから市内の狭くて古いマンションに引っ越しし、生活は両親に手伝ってもらい、子供の教育はいろんな塾に見てもらい、なんの心配事もなく楽しい日々を送ってきました。
コロナの影響は、ちょうど旧正月の休み中にひどくなってきました。多くの人が実家に戻ろうとしているときに、国から小売業、観光地などに営業禁止が要請されました。私も子供と行く約束をしていた博物館や遊園地などが閉鎖されて、観光地の登山も行けなくなりました。主人の出版社が投資した映画も、映画館の閉鎖とともに上映が無期限に延期されました。
中国の伝統として、一家団欒が重要視さていますが、安全のためにWeChatだけの新年挨拶がちょっと寂しかったです。マスクもなかなか入手できなかったので、自粛することが国に迷惑をかけない愛国的な行動だとみんなが意識しています。
仕事も塾も再開できなくて、どこにも行けないし、家に籠って子供の教育に集中することが重要なミッションになりました。北京で大繁盛している教育業も、大きなダメージを受け、倒産も少なくないようです。多くの企業がECの重要さを再度認識して続々と始めていますが、消費者の収入も少なくなっているなかで、消費が控えられています。
国を挙げて自粛やマスク着用を厳守した成果、中国全土がかなり回復できました。子供の学校や映画館、博物館などもまだ再開できないですが、1カ月前から私も仕事を再開できて、飛行機で飛び回っています。しかし、コロナが原因で中止になった案件もあるし、コスト削減や在庫問題で悩んでいるクライアントからのご相談も続出しています。
先日、最も管理が厳しい北京市が「人の少ない戸外ではマスクを付けなくてもいい」と発表しましたが、世界の国々がまだ苦戦しているなかで喜べない状態だとみんながわかっており、自主的にマスクを付けています。
ニューノーマル下で、アパレルはどうする?
以上がタクさんからの報告である。彼女の顧問先である中国のアパレル企業でも、日本とほぼ同じ課題が浮上していることがわかる。どの国でもアパレル産業が同じような構造を持ち、「つくって、がんばれば、売れる」で来てしまった現実を映し出している。
もうひとつ。「仕事も塾も再開できなくて、どこにも行けないし、家に籠って、子供の教育に集中することが重要なミッションになりました」というタクさんの一文には、今後を考える大きなヒントがある。中国の受験戦争は激烈で小学校から選抜制のため、子供は幼稚園の頃から訓練が必要となる。日本でも同じ部分はあるが、生活する場所によって教育機会を得られるかどうかが左右される面は、中国のほうが大きいと筆者は感じる。
そういう状況のなかでコロナによって子供たちはより強いストレスを抱え、感情表現がストレートになり、主張のはっきりした服装を選ぶようになるだろう。大人も服装において「感情の主張=本人の嗜好」の強調が進むかもしれない。
このあたりは日本の“百貨店アパレル”の弱いところだ。おとなしくて高額な継続品番はそろそろやめたほうが、早く“ニューノーマル”に対応できる。例えば、「オンラインの会議や飲み会では、どんな印象が良いか?」といった視点なども、商品開発や販売において重要になってくる。
コロナによって人々の支出の優先順位が変わり、衣服のそれは少し下がるかもしれないが、まず提供するアパレル企業側から先に動き、消費者に魅力を伝えていくことこそ“アパレルがあばれる”ための最低条件である。
(文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員)