韓国で2020年1~3月の成長率が公表された。季節変動や物価変動の影響を除いた季節調整済実質成長率は1.4%減となり、この減少率が1年間続いたと仮定した場合の1年間の変化率である年率では5.5%減となった。そもそも韓国は現在でも潜在成長率が3%程度と高く、マイナス成長になることは珍しい。1990年1~3月期から今期である2020年1~3期までの30年ほど、120の四半期のうち、前期比がマイナスになったのは10回しかない。
なかでも一番マイナス幅が大きかったのは通貨危機に直面した直後である1998年1~3月期であり、年率で24.6%の減少となった。当時は前年末に通貨危機が発生し、IMFから融資を受けるための条件を満たすためマクロ経済政策を超緊縮基調とした。
具体的には、コール金利をサラ金なみの高水準に引上げた結果、各種金利も大幅に高まり、設備投資がストップした。さらにただでさえ税収が減るなか財政収支を黒字化させたため、政府支出を大幅に削減した。その結果、総需要が急激に縮小して記録的なマイナス成長となった。
次にマイナス幅が大きかったのは2008年10~12月期であり、前期比で3.3%減、年率で12.5%の減少であった。この時期は、リーマンショックによりウォンが急落し金融市場が混乱し、実体経済も大きなマイナスのショックを受けた。
総じてみれば低調に推移
2020年1~3月のマイナス成長幅は、通貨危機直後、リーマンショック直後に次ぐものであり、これはいうまでもなく新型コロナウイルス感染拡大による影響によるものである。2020年1~3月の成長率を、需要項目別に詳しく見てみよう。今回、最もマイナス幅が大きかった需要項目は個人消費であり、前月比6.4%減、年率では23.2%にも達した。
一般的に個人消費は、消費の習慣性から景気変動に対して安定的な動きを示す。すなわち、景気が悪くなってもそれほど不振とならず、景気が良くなっても大きく増加しない性質をもっている。しかし、今回は一般的な動きとは異なり大幅減となった。これは、新型コロナウイルス感染拡大により、人々が外出しなくなったため、飲食サービスや宿泊サービス、娯楽・文化サービスが急落したことによる。
一方、景気悪化時に大きく減少するはずの設備投資はプラスを維持している。前期比では0.2%増、年率では0.9%増であり、決して高い伸びとはいえないが、GDP全体の成長率が大きなマイナスとなるなか、踏ん張っているともいえる。これは、後述する理由で半導体の調子がよく、これに関連する設備投資が堅調であることが大きい。また建設投資は前期比で1.3%増、年率で5.2%増と調子がいいが、土木工事がその要因であり、政府による景気下支えが行われていることがうかがえる。
輸出は前期比で2.0%減、年率で7.8%減と調子が悪い。韓国は輸出依存度が高いが、主に中国向けとアメリカ向けのウェイトが高い。今回のコロナウイルス感染拡大は、最初は中国が中心であり景気を大いに冷やした。そして感染拡大が欧米に波及して景気が悪化している。これら主要輸出先の景気が悪くなれば、当然、物が売れなくなるわけであり、自動車、機械類、化学製品などの輸出が不振となっている。ただし半導体の輸出は増加している。
新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークなどコンピュータを通じたコミュニケーションが広がっている。そのため、コンピュータ販売が増加しているが、それに搭載される半導体も間接的に売れるようになった。半導体が主力な輸出製品である韓国にとっては不幸中の幸いであり、もし半導体も落ち込んでいたら、さらに悪い数値となっていたであろう。
今後の焦点は、この大幅なGDPの落ち込みからいつごろ回復するかであるが、今回はかなり時間がかかるであろう。5月に入り韓国では感染終息の動きも見えたが、気の緩みもあり第2波ともいえる動きが出ている。よって個人消費が元に戻るには時間がかかりそうである。
また輸出も半導体は堅調に推移するだろうが、中国や欧米の景気が回復するのもかなり先になりそうであり、総じてみれば低調に推移するだろう。新型コロナウイルス感染拡大は韓国経済の足を引っ張り続けそうである。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)