いつも優雅にしている私、戦略コンサルタントでビジネス作家の鈴木貴博が死にそうな顔をして必死に、暇さえあれば過去の企業不祥事を勉強し続けるという異常事態が起きたのが、6月末から7月上旬にかけてのことでした。
「いや、鈴木さん、改めて勉強しなくても企業不祥事には詳しいのに」
と優しく声をかけてくれる友人もいたのですが、今回だけはちょっと理由が違うのです。とはいっても安心してください。私の会社が不祥事に巻き込まれたわけではありません。実は想定していなかったこんな事情からなのです。
みなさんはBSスカパー!の番組『地下クイズ王決定戦』をご存知ですか? 本連載前回記事でも少し触れたのですが、地上波では放送できないジャンルのクイズを、なぜかその分野に詳しい「社会不適合者の解答者のみなさん」が競い合うという「YouTube」でも人気の地下テレビ番組です。
最初にこの番組を見たときから「自分なら勝てる」と思っていたのですが、今回、不肖私が番組オーディションを通過して、コンサルティング業界からの番組初参戦が決定したのです。
この番組、クイズが「殺人鬼」「薬物」「芸能スキャンダル」「裏社会」などのアンダーグラウンドな8ジャンルから出題されるのですが、私も昔から未解決事件や陰謀論のマニアで、裏社会事情についてもそこそこの知識はあるのです。「まあ、いけるんじゃないか」と思っていたところ、番組スタッフの方から思わぬ通達を受けました。
「今回、大手暴力団の分裂が緊迫している関係で『裏社会』のジャンルがなくなりました。代わりに『企業不祥事』のジャンルが加わりますので、準備をよろしくお願いします」
うわー、来てしまいました。自分の仕事ともろにかぶった新ジャンル。実はこれがめちゃくちゃプレッシャーに。なぜなら、自分の専門分野なのに「知らなかった」なんて許されないからです。
「不祥事クイズ対策」の日々
たとえば、読者のみなさんで日本経済新聞をよく読んでらっしゃる方、こんな問題をいきなり出されて、解けますか?
・問題1:歴代の3社長が不正会計の責任を取って退任した東芝の不正会計問題の一因となった、当時の社長たちが事業部門に要求してきた過剰な業績改善のことを東芝社内では何と呼んでいた?
これ、経済に詳しい方はきっと「聞いたことはある」はずなのですが、普通は記憶をまさぐってもすぐには出てきません。クイズ番組ですからボタンを押して5秒で解答できなければアウトですが、私でもそこで凍ってしまいそうです。
ちなみに正解は「チャレンジ」。当時は結構ニュースで話題になりましたが、ちょうど忘れている頃合いです。
同様に、
・問題2:雪印の集団食中毒問題で「私は寝てないんだ!」と逆ギレした社長の名前は?
・問題3:今年3月、第三者委員会の調査報告書で子会社を通じて260億円の不透明な貸付や不動産取引が行われたことが判明し問題になった東証1部上場企業は?
といったクイズ問題に5秒で正解できなければ、「鈴木貴博ってコンサルタント、全然、不祥事の問題に答えられないね」という評判が一夜にして世の中に出回ってしまいそうです。ちなみに問題2の答えは石川哲郎社長(当時)、問題3の答えは王将フードサービスです。
ということで私は急に青い顔になって、それ以来、番組収録までの3週間、すきま時間があればとにかくインターネット記事から企業の不祥事ニュースを勉強するという「不祥事クイズ対策」の日々が始まったのです。
ひと月で50件も不祥事発生
さて、みなさんはニュースになる企業の不祥事がどれくらいあるか想像がつきますか? ネット上に日々の不祥事のニュースを整理しているシンクタンクのサイトがあるのですが、今年6月の不祥事関連のニュースリストだけで50件。つまり過去1年のニュースを勉強するだけで600件もの事例を目にすることになります。過去5年なら3000件。驚くほどの数ですね、というか内部事情をよく知るコンサルタントは、この数が多いということ自体にはそんなに驚いたりはしませんが。
そしてそのリストを見ると、結構有名な事件ばかり。最近リストアップされた記事でも「オリンパス粉飾決算事件」「ホテルサニー志賀で預かっていた中高生の財布の盗難」「航空会社のパイロットが酔って警官を殴り、フライトが欠航」「カレーチェーンが廃棄したカツを廃棄業者が横流し」など、すべてニュースとしてよく知られている話ばかりだから、これは調査範囲としては膨大です。
どの範囲まで調べて、どの深さまで覚えておくべきか。なまじよく情報を知っている専門家だけに、「全部覚える!」では成り立たない状況をどうすべきか。つまり、「地下クイズ」対策のための戦略が必要です。
さて、その戦略を立てるためにもう一度、過去の『地下クイズ王決定戦』の番組をよく見て分析してみました。企業の不祥事に関係して、前回の番組では、船場吉兆の釈明会見で有名になった「ささやき女将」が答えになる問題が出題されています。
実はこの問題だけではないのですが、『地下クイズ王』の番組に出題される問題を見ると傾向がわかってきます。それは、答えを聞いた視聴者がくすりと笑ってしまうということ。確かに番組で殺人鬼の陰惨なエピソードの問題を出されても、視聴者は引いてしまいます。ここが対策のポイントで、「過去の企業の不祥事のニュースのなかで、笑ってしまうエピソードを集めて、そこだけを集中して対策として覚えればいい」のです。
その成果やいかに?
この点さえわかってしまえば、あとは粛々と作業を進めるだけです。というか、過去に経済コラムを書くためのネタとしてメモしていた情報が結構使えます。たとえばこんな感じです。
問題4:今年6月、東京地裁の判決で裁判長から「ルールを守らなければビジネスマンとしては失格です。ルールをなめてはいけません」と説教された脱税容疑の被告が、1980年代に大ヒットさせた商品は何?
問題5:14年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが大規模なサーバー攻撃を受ける原因になった、映画のなかに北朝鮮の金正恩そっくりな本人役の役者が登場するコメディー映画は何?
問題6:14年にワンオペが問題になり人繰りがつかなくなったため「すき家」ではいくつもの店舗が開店できず一時閉鎖に追い込まれましたが、店頭には閉鎖の理由はなんだと表示されていた?
問題7:旭化成建材が杭を工事した横浜のマンションは傾きましたが、15年9月の鬼怒川決壊の濁流の中でもただ一棟流されず、流されてきた「犬と夫婦」や流されそうになっていた「電柱おじさん」の命も救った、旭化成グループが販売する堅牢な注文住宅は?
それぞれ解答は以下の通り。言われてみれば知っているエピソードばかりなのではないでしょうか?
答4:なめ猫
答5:ザ・インタビュー
答6:パワーアップ工事中
答7:ヘーベルハウス
ということで知識を急きょ詰め込んで、自信満々で迎えたのが今回の『第六回地下クイズ王決定戦』です。これは私がタレントとしてオスカープロモーションに所属することになった第1号の番組でもあるのですが、その成果やいかに?
ところでわが社のクライアントに関係する「不祥事」のクイズ問題が本番で出題されたらどう答えればよいのだろう? という問題は未解決のままですね。ま、とにかく8月1日の本放送を、ぜひお楽しみに。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)