定食店「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋)が岐路に立たされている。同社は5月25日、2020年3月期連結決算の最終損益が11億円の赤字(前期は5500万円の黒字)に転落したと発表した。合わせて今期(21年3月期)中に12店を閉鎖することも発表。不採算店を閉店し、収益改善を図る。
売上高は4.5%減の245億円だった。たび重なる値上げなどで顧客離れが起きていたなか、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。20年3月期の既存店売上高は6.6%減だったが、3月が前年同月比20.7%減と大きく落ち込んだことが響いた。2月は3.2%減だった。販売不振が影響し、営業損益は6億4800万円の赤字(前期は4億1400万円の黒字)だった。
大戸屋の不振は止まらない。4月の既存店売上高は48.4%減と大幅マイナスとなった。前年割れは同月まで15カ月連続だ。特に問題となっているのが、値上げによる「価格の高さ」だ。昨年4月のメニュー改定では定食の一部を値上げしたほか、税込み720円と安価で人気のあった定番商品「大戸屋ランチ」を廃止したことで顧客離れが加速した。昨年10月に大戸屋ランチを復活させるなどメニュー改定を実施して客足回復を試みるも、売り上げは想定した水準には回復しなかったという。依然として厳しい状況が続いている。
こうした厳しい状況のなか、大戸屋に手を差し伸べたのが外食大手のコロワイドだ。居酒屋を中心に出店を重ねて成長してきたコロワイドは、これまで焼肉店「牛角」や回転ずし店「かっぱ寿司」などの運営会社をM&A(合併・買収)で傘下に収めることで、さらなる成長を果たしてきた。
そのコロワイドが昨年10月に、大戸屋の発行済み株式の18.67%を大戸屋の創業家から取得し、同社の筆頭株主となった。
両社は協業を通じて大戸屋の業績回復を模索した。大きな問題となっていたのが、商品の価格の高さだ。大戸屋は「店内調理」を売りとしているため、手間がかかる分、昨今の人手不足を背景とした人件費上昇がコスト増につながっていた。大戸屋はこうしたコスト増を価格に転嫁することで対応してきた。だが、それにより「大戸屋は高い」という悪いイメージが定着してしまい、客離れが起きるようになった。そのため、協業を通じて効率化を図り、手ごろな価格にすることが期待された。
コロワイドの大戸屋乗っ取り計画、株主は賛同
だが、ここにきて両社の関係が悪化し、協業による価格の引き下げに黄色信号が灯っている。6月25日に開催予定の大戸屋の株主総会で、コロワイドが経営陣の刷新を求める株主提案を行うと大戸屋に通告したのだ。将来的には大戸屋の子会社化も目指すことも示している。これに対し大戸屋の取締役会は、「当社取締役会を実質的に支配しようとしている」「子会社化した後の具体的な経営方針が見えない」などと反発し、両社の対立が激化している。
これはコロワイドによる大戸屋の「乗っ取り」ともいえる。コロワイドは大戸屋の業績が回復しないのは経営陣のせいだと断罪。経営陣を刷新するほか、大戸屋を子会社化することでコロワイドが持つ経営資源を活用して大戸屋のコストを削減することで、業績を回復させることができると主張する。こうした主張を他の株主に訴えて株主提案を通したい考えだ。それにより大戸屋の取締役会を支配し、大戸屋を傘下に収めようとしている。
コロワイドは大戸屋の乗っ取り計画を着々と進めてきたようだ。コロワイドは他の大戸屋株主に対し、大戸屋のコロワイドグループ入りに関するアンケートを3月23日から約2万4092人に発送したという。
大戸屋の株主数は、同社のホームページによると、3月末日時点で2万5555人となっているため、大方の株主に送付したとみられる。有効回答数は1万8891人で、そのうちの9割超から賛同を得たという。
コロワイドが提案する大戸屋のコスト削減策は、主なものが3つある。まずは仕入れ条件の統一によるコスト削減だ。共通する食材の仕入れ価格を安いほうの価格で統一することで仕入れ価格を低減するほか、大戸屋のグループ入りによる事業規模の拡大で生じる価格交渉力の高まりで、仕入れ価格を低減するという。
2つ目にセントラルキッチン(集中調理施設)の活用がある。コロワイドが持つ全国10カ所のセントラルキッチンで大戸屋商品を製造することで、店舗作業の負担軽減を図るという。
3つ目が物流網の共通化だ。両社の物流拠点を集約・統合することで物流拠点に要する設備費用を削減するほか、配送ルートの最適化による物流効率の高まりで物流コストを削減するという。
ほかにもコスト削減策を挙げているが、コロワイドの試算では、これら3つだけで6億円以上の利益貢献が見込めるという。
セントラルキッチンは別として、これらはチェーン店が追求すべき王道の施策だ。規模の大きさを生かした低コスト運営は、チェーン店経営の要といえる。これはもちろんコロワイドの専売特許ではなく、他の飲食企業や小売業でも行われていることだ。最近話題になったものでいえば、ドラッグストア大手のマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが21年10月に経営統合することがそうだろう。統合する目的として、仕入れの一本化で仕入れ原価を低減するほか、物流効率の改善で物流コストを削減することを挙げている。こうした例は枚挙にいとまがない。
コロワイドが示したコスト削減策も、これと同じだ。だが、大戸屋の経営陣は疑問を呈している。
コロワイドの食材やセントラルキッチンを広く活用するとなると商品の品質が保てないので、この面での協業はほとんどできず、コスト削減は限定的にならざるを得ないという。物流網の集約・統合に関しても、仕入れの共通化とセントラルキッチンの活用がない場合は物流面でのコスト削減は限定的になると主張する。
大戸屋経営陣とコロワイドの対立
このように両社の主張は真っ向から対立する。どちらの主張が正しいかは、なんとも言えない。どちらの主張にも一理あると思えるからだ。どちらに分があるかは詳細な検証をしてみないとわからないだろう。だが、詳細な検証を行う前に両社が対立してしまっため、検証できずじまいだ。
そうであれば大戸屋としては、代わりとなる施策が必要になる。それについて同社は5月25日に発表した中期経営計画に盛り込んでいる。不採算店を閉店するほか、異なる特徴を持った3パターンのメニューを立地に応じて展開したり、サプライチェーン(供給網)の全体最適化を図って対応するという。また、海外市場への出店を加速させる考えを示している。こうした施策でコストを削減し、客足を回復させたい考えだ。だが、これらの施策で抜本的に改善できるかは疑問符をつけざるを得ない。
不採算店の閉店は当然に必要だが、単に事業を縮小させるだけなら、規模を生かしたコスト低減効果を損なうだけだ。そこで新業態の出店などで補う考えだが、一気に大量出店はできないので、短期的には大きな効果は見込めないだろう。サプライチェーンの全体最適化にしても「調理工程の標準化」といったありふれた施策ばかりが並んでいて、効果の程はたかが知れているし、今さら感が否めない。海外市場への出店強化も、これまでの延長線上の施策にすぎず、新鮮味はない。
一方、立地に応じたメニュー展開は、新鮮味があって面白い施策だ。単身・少人数向けの「ビジネス立地」とファミリー・団体向けの「ショッピングセンター・ロードサイド立地」、この2つの中間向けの「駅前住宅・商業立地」の3つに分けて展開するという。立地でメニューが異なるため、価格帯も異なる。こうすることでターゲットの所得に応じた価格帯の展開ができるので、「価格が高い」という不満の声を減らして幅広い層を取り込むことが期待できるだろう。
ただ、これは逆にコスト増につながるリスクをはらむ。一部の立地でしか提供されないメニューは供給数が限られることになるので、規模を生かした仕入れなどができず、コスト増につながる可能性がある。このマイナス効果がメリットを上回る可能性がある。上回らないとしても、メリットの多くを相殺してしまうことが十分考えられる。
これらを総合的に考えると、大戸屋の主張は説得力に欠ける感が否めない。こうしたことを大戸屋の株主がどう判断するのか。6月の株主総会の行方に関心が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)