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財界の重鎮・牛尾治朗氏、安倍首相と姻戚関係だった…小泉構造改革の“陰の司令塔”

文=編集部
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ウシオ電機 HP」より

 ウシオ電機の創業者、牛尾治朗氏(89)は5月12日付で会長を退任し、取締役相談役に就いた。代表権も手放す。

 1964年、ウシオ電機を設立以来、半世紀にわたって経営を牽引してきた。現在の内藤宏治社長は2019年4月に社長に就いており、1年を経過したことから会長の退任を決断したという。牛尾治朗時代の終焉だ。

 財界世話人と呼ばれる経済人がいる。財界の枢要なポストを歴任し、政界とのパイプ役を果たす。牛尾氏は政界とのつながりも強く、歴代政権へ助言をしてきた。安倍晋三政権の後ろ盾として政権に隠然たる影響力を持つ財界人は、葛西敬之・JR東海名誉会長、古森重隆・富士フイルムホールディングス会長らを中心とする保守派財界人のグループだ。葛西氏らは首相が若手の頃から「四季の会」をつくり応援してきた。同会のメンバーの1人だったのが中西宏明・日立製作所会長で、財界総理と呼ばれる経団連会長に就任した。

 財界人の序列で見ると、牛尾氏は別格だ。18年6月、東京・三田のフランス料理店「ジョエル・ロブション」で、安倍首相の母・洋子さんの卒寿(90歳)を祝うパーティーが開かれ、牛尾氏も出席した。牛尾氏の長女・幸子さんは、安倍首相の実兄の安倍寛信・三菱商事パッケージング社長の妻。牛尾家と安倍家は姻戚関係にある。牛尾氏と安倍家の関係は、寛信・晋三兄弟の父・安倍晋太郎氏と親交があったことに始まる。晋太郎氏の後援会の一つ「総晋会」会長を務めた。晋太郎氏が外務大臣になったとき、晋三氏が神戸製鋼所に在籍したまま秘書になったが、その当時からの古い付き合いだ。

祖父は相場師、父は銀行と電力会社の経営者

 牛尾家の始祖は牛尾梅吉氏。播磨国姫路(現・兵庫県姫路市)の生まれ。太物(呉服)の商いを始め、米穀の仲買業に転じ、米穀取引で大成功を収める。1913年、大阪・堂島に進出。大相場師・石井定七と米の先物相場で大勝負を演じ、勇名を馳せた。孫の治朗氏は日本経済新聞に掲載の『私の履歴書』に「売りの石井、買いの牛尾の一騎打ちになった」と書く。梅吉氏の相場のやり方は徹頭徹尾そろばん本位で、“算盤将軍”と呼ばれた。儲けたカネで土地を買った。そして、姫路駅前の大地主となった。

 梅吉氏の息子、牛尾健治氏は姫路銀行頭取を務めた。のちに神戸銀行に吸収合併され、神戸銀行(三井住友銀行の前身の一つ)の初代副頭取に就いた。健治氏は電力・電機事業に進出。中国合同電気や山陽配電(関西電力・中国電力の前身)の大株主・経営者となり、牛尾財閥を築いた。戦時体制による電力の国家管理を批判する論陣を張ったことでも知られる。中国合同電気の電球製造部門が独立して姫路電球となり、同社から産業用特殊光源(ハロゲンランプ)部門を受け継いで設立したのがウシオ電機である。

小泉純一郎政権で経済財政諮問会議の委員として構造改革を推進

 牛尾治朗氏は1931年2月生まれ。東京大学法学部を卒業し、東京銀行(三菱UFJ銀行の前身の一つ)に入行。退職後カリフォルニア大学大学院に留学し、家業の傍ら、28歳の若さで経済同友会に入会し、早くから財界活動に軸足を移すようになる。1964年3月、33歳の時に姫路電球から製造部門を分離し、ウシオ電機を設立、代表取締役社長に就いた。

 1969年、日本青年会議所会頭となり「財界の老害」を批判。「21世紀は市場経済の時代。民間が自立した社会にする必要がある」として規制緩和や株主尊重の路線を打ち出した。81年に第二次臨時行政調査会専門委員、95年から4年間、経済同友会代表幹事を務めた。2001年1月、森喜朗政権下で発足した経済財政諮問会議に初代の民間議員として参画。小泉純一郎政権(01年4月~06年9月)が幕を閉じるまで、その職を全うした。

 小泉構造改革はオリックス会長の宮内義彦氏が議長を務める規制改革・民間開放推進会議と牛尾氏が陣取る経済財政諮問会議が両輪の役割を果たした。小泉政権が発足する前から竹中平蔵氏に声をかけ、のちに小泉構造改革の柱となる政策を提言する集まりに参加させた。小泉政権発足と同時に、竹中氏は民間人閣僚として経済財政政策担当相に就任。「聖域なき構造改革」を断行する経済財政諮問会議の司令塔となった。

 小泉氏からバトンを引き継いだ第1次安倍内閣では、大田弘子氏が経済財政政策担当相に起用された。<安倍に大田を強力に推薦し、躊躇する大田を「新しい民間議員のリード役を務めて欲しい」とひざ詰めで口説き落としたのは、実は牛尾さんだった>(清水真人『経済財政戦記』日本経済新聞出版社刊)という。

新自由主義の牛尾氏と、保守本流のJR東海葛西名誉会長

 健康状態の悪化から、いったん下野した安倍氏は、政権に返り咲いた。牛尾氏と安倍氏の政治信条はかなり違うとされてきた。

「牛尾氏と葛西氏は水と油」(財界の長老)。

 牛尾氏は小泉政権時代に経済諮問会議の民間議員として規制緩和を推進した、市場原理主義に基づく新自由主義派。葛西氏は新自由主義が大嫌いな保守本流だ。牛尾氏が財界世話人として存在感を示したのは小泉政権時代である。牛尾氏は経営者として目立った業績は残していない。ウシオ電機の20年3月期の売上高は前期比3.7%減の1590億円、純利益は21%減の89億円。中堅企業にとどまる。

 新型コロナウイルス対策として、紫外線にはウイルスの感染力を抑える効果があるとされる。なかでも深紫外線は特に効果が高いとされている。ウシオ電機は深紫外線の新製品を開発中ということで、株式市場で久しぶりにスポットライトが当たった。2020年後半から紫外線照射モジュールを米社に供給するという材料が新たに出て、6月2日には一時、216円高の1554円まで買われた。年初来高値は1月10日の1796円だ。

 治朗氏の長男・志朗氏(62)はウシオ電機取締役。治朗氏の引退後、創業家の指定席である会長に就くと思われる。早ければ、株主総会後の取締役会で会長になるかもしれない。くしくも、牛尾治朗氏のウシオ電機会長の退任と、葛西氏のJR東海取締役退任が発表された。安倍長期政権の黄昏を象徴するような人事、と評されている。

(文=編集部)

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