石油元売り大手3社の2020年3月期決算が出そろった。原油価格の下落で3社とも赤字に転落した。新型コロナウイルスの感染拡大などによる急激な原油安の影響で、備蓄している原油の在庫の評価損が膨らんだ。3社の在庫評価損の合計は3513億円に達した。
21年3月期の売上高は上半期(4~9月)は新型コロナの感染拡大でガソリン需要が減少するとして3社とも大幅な減収を見込む。一方、出光興産、コスモエネルギーホールディングス(HD)は在庫評価損が解消、JXTGホールディングスはそれが縮小することから最終損益は黒字に転換する見通し。JXTGHDが400億円、コスモエネルギーHDが145億円、出光は50億円の黒字を見込んでいる。
【大手3社の20年3月期決算と21年3月期の業績予想】
売上高 純利益
20年 21年予想 20年 21年予想
JXTGHD 10兆117億円 7兆3400億円 ▲1879億円 400億円
(▲10.0%) (▲26.7%) (-) (-)
出光興産 6兆458億円 3兆9000億円 ▲229億円 50億円
(36.6%) (▲35.5%) (-) (-)
コスモエネルギーHD 2兆7380億円 2兆400億円 ▲281億円 145億円
(▲1.2%) (▲25.5%) (-) (-)
(かっこ内は前期比の増減率。▲はマイナス。JXTGHDは国際会計基準。出光興産は19年4月に昭和シェル石油を完全子会社にしたため20年3月期は売上高が大幅増となっている。)
出光が年間配当を60円増の160円とする理由
出光興産は19年4月、昭和シェル石油と経営統合してから初の決算となった。20年3月期の連結売上高は前期比36.6%増の6兆458億円、営業損益段階で38億円の赤字(19年3月期は1793億円の黒字)、最終損益は229億円の赤字(同814億円の黒字)だった。原油価格の急落で在庫評価損が膨らんだほか、新型コロナウイルスの影響で石油製品の需要が減少した。昭和シェルの前年同期の実績を100%連結した場合の概算値での比較だと、売上高は19年3月期と比較して12.0%減、営業損益は2453億円の赤字となった。
木藤俊一社長は今後も「ガソリンやジェット燃料の需要減が続く」と厳しい見方を示した。燃料油部門は1094億円の赤字(前期は280億円の黒字)。在庫評価引き下げで891億円の損失を計上し、ガソリン販売の利幅も縮小した。基礎化学品部門の利益は62.5%減の119億円。中国での需要低迷を受けスチレンモノマーなどの採算が悪化した。
にもかかわらず、年間配当は前期に比べ60円増の160円とした。配当金総額は2.4倍の479億円となった。赤字決算なのに高額配当とはなぜか。創業家と和解した際の合意書に株主還元の大幅強化や出光の商号の維持が盛り込まれたからである。創業家との約束は赤字決算になったからといって反故にするわけにはいかなかったのだ。
21年3月期の最終損益は50億円の黒字を予想。売上高は20年3月期比35%減の3兆9000億円を見込んでいる。年間配当は「未定」とした。
創業家の出光正和氏が非常勤取締役
出光興産は15年、昭和シェル石油との経営統合を発表したが、創業家との対立で時間を空費した。外資系の昭和シェルとの統合で出光が民族系でなくなることを創業家は危惧したのだ。創業家からの取締役の受け入れや株主への大幅な利益還元が和解の条件となった。創業家から日章興産社長の出光正和社長が非常勤取締役として入った。創業家の顧問弁護士の久保原和也氏が社外取締役に就いた。
昭和シェルとの経営統合で創業家の持ち株比率は低下した。日章興産は筆頭株主だが、持ち株比率は8.98%、公益財団法人出光文化福祉財団が4.10%、公益財団法人出光美術館が2.65%(19年9月末時点、自己株式は控除)に低下した。出光興産の配当金が、それぞれの事業の運営資金となる。
新ブランドに統一、創業家はアポロマークにこだわる
19年4月にやっと経営統合にこぎつけたが、3年あまりの時間を空費した代償はあまりにも大きかった。この間、石油メジャーは構造改革を加速させた。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは液化天然ガス(LNG)や再生エネルギーが稼ぎ頭になった。出光興産は脱石油で周回遅れとなってしまった。
新・出光にとってブラントの統一が最大の課題だが、創業家が出光のアポロマークにこだわっているため、全販売店が受け入れやすい新しいブランドを打ち出せなかった。なぜなら、18年7月に合意した統合条件で出光のアポロマークを残すことが盛り込まれたからである。人口減少と車離れ、化石燃料への逆風で国内の石油需要は40年に半減する見通しである。新時代にふさわしいブランド刷新することが急務なのに、21年から順次、全国約6400カ所の系列給油所すべてのマークを出光のアポロマークに手を加えたものにする方針だ。
17年に2社が統合して生まれたJXTGエネルギーは「ENEOS」に統合して攻勢を強めている。出光は、合併した時点で新しいブランドを大々的に打ち出すことができなかったため、「勝負あった」(エネルギー担当のアナリスト)という厳しい指摘もある。
対等の精神に基づき、統合会社の代表取締役には出光出身の月岡隆会長と木藤俊一社長、旧昭和シェル出身の亀岡剛副会長と岡田智典副社長が就いた。6月25日の株主総会で月岡、亀岡、岡田の3氏が退任する。代わりに、出光出身の松下敬副社長、丹生谷晋副社長が代表権を持つ。この結果、すべての代表取締役は出光出身者となる。
(文=編集部)