先日、都内でガソリンスタンド(以下、GS)を営む友人から電話があった。「そろそろ店を閉めようかと思う」と苦渋を滲ませた声で語った。
これまでにも、本連載では『ガソリンスタンド激減!地方の生活基盤が崩壊危機?』(2015年7月19日)と『ガソリンスタンド過疎地&石油難民の激増が社会問題化…生活維持が困難、首都圏でも』(16年7月20日)の2回、GSが激減し、さまざまな影響が現れていることを取り上げた。そして今また、GSをめぐる新たな変化が起こっている。
まずは、現在のGSの状況を振り返っておきたい。経済産業省と資源エネルギー庁が7月19日に発表した「揮発油販売業者数及び給油所数の推移」によると、揮発油販売業者数(以下、販売業者数)は平成に入ってから減少し続けており、平成元年度(1990年3月末)に3万2835だったのが、2018年3月末の販売業者数は1万4612と55.5%も減少した。給油所数は1995年3月末がピークで6万421だったのが、同じく3万747と49.1%の減少となっている。2017年度だけでも、販売業者数は466、給油所は720も減少した。
特徴的なのは、給油所の減少は主に大都市で起こっているという点だ。直近データの17年度を例に挙げれば、東京都では52、千葉県では36、愛知県では33、大阪府では25も減少しているのに対して、秋田県はゼロ、岩手県・徳島県・宮崎県は1といったように減少に歯止めが掛かっている。
この背景には、地方で給油所数が生活する上で限界に近いほど減少しており、なかには一番近い給油所が20キロメートル以上も離れているといった状況もある。このため、地域で独占状態になっていることで商売が成り立っている。
しかし、給油所が廃業する理由としてもっとも大きいのは、1996年4月に特定石油製品輸入暫定措置法が廃止され、ガソリンの輸入が解禁されたことによる採算の悪化だ。その上、2010年6月に改正された「危険物の規制に関する規則」では、13年1月末までに給油所の地下タンクを改修することが必要となり、消防法の許可が受けられなかったところも多かった。
そして現在では、若者の自動車離れによる自動車保有台数の減少に加え、ハイブリッドカーを中心として燃費の向上により、ガソリンの需要が減少していることが輪をかけている。さらに、他の業種と同様に経営者の高齢化と後継者不足、労働力不足が追い打ちをかけた。1998年4月には消防法が改正され「顧客に自ら給油などをさせる給油取扱所」いわゆるセルフサービスのGSが登場し、セルフサービスのGSは急速に増加したが、給油所の減少に歯止めをかけることはできなかった。
大気環境配慮型GSの認定制度
そして今、新たな制度がGS経営者を苦しめようとしている。それが、今年創設された「大気環境配慮型SS(サービスステーション)の認定制度」だ。
環境省が進めるこの制度は、大気汚染物質の原因物質のひとつで、ガソリン特有のにおいのもとでもある燃料蒸発ガスの排出を抑制したGSを認定するもの。ガソリンを給油中には、蒸発したガソリンが燃料蒸発ガスとして大気中へ放出される。これは、光化学オキシダント(Ox)やPM2.5(微小粒子状物質)を発生させる原因物質のひとつだ。
そこで、給油に当たって従来のノズルを燃料蒸発ガスが回収できるノズルに変えることで、ガソリンを給油しながら燃料蒸発ガスを回収することが可能な技術が開発された。燃料蒸発ガス回収機能を有する給油ノズルを設置した給油所を「大気環境配慮型SS」と認定する制度が創設された。この制度は、燃料蒸発ガスの回収率に応じて4段階にランク分けして認定される仕組みとなっている。
「それでなくても、GSは収益率が非常に悪い商売。その上、消防法の規制も厳しい。そこに環境省が登場して設備投資を迫られ、GSをランク付けされれば、これ以上、GS経営を続けるのを断念する業者も増えるだろう」(前出・友人)
この制度、6月から認定要領や認定基準等の策定が始まり、7月に給油所の認定申請受付が開始された。もちろん、環境問題は重要なのだが、この制度がGSの減少に拍車を掛けないことを切に願うばかりだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)