独自の喫茶店文化をもつ名古屋から出発し、今や全国各地に店舗を持つに至った喫茶店チェーン「珈琲所コメダ珈琲店」は、ソフトクリームのたっぷりのったシロノワールや美味しいコーヒーなどで人気を博している。そんなコメダのアルバイト店員の労働実態について最近、問題を指摘する声が次々と上がっている。
「私の働いていた店舗のアルバイトには罰金制度があって、たとえばオーダーをミスするとその商品を半額でアルバイトが買い取らなくてはいけないのです。しかも、コメダのアイスコーヒーは基本的にガムシロップ入り。もし『ガムシロ抜き』というオーダーを受けたら、わざわざそれを厨房に伝えなくてはいけないのです。もちろん、ガムシロ抜きを注文した客にガムシロ入りを出してしまえば、そのコーヒーは廃棄です。ガムシロップを最初から別にして渡せば済むのに、改善しなかったのです」(コメダのアルバイト経験者)
そもそも、アルバイトに罰金を科す時点でどうなのかという疑問もあるが、コーヒーのオーダー間違いのレベルで罰金を課すことは適切といえるのだろうか。
さらに、「辞める1カ月前に報告しなかった場合」「無断欠勤したとき」などに罰金を取られる店舗もあるという。当然ながら「退職の1カ月前には報告」「無断欠勤しない」ということは社会人として常識だが、だからといって罰金を科して良いのだろうか。
「私が本部にこの罰金制度のことを伝えても、『そこは店に任せているから……』と言葉を濁されて、責任を逃れられてしまったんです」(同)と明かす。
こうしたコメダの行為は法的に問題ないのだろうか。弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士の山岸純氏は、次のように解説する。
労働者のミスへの違約金は違法
まず、アルバイトも含めた労働者の権利義務関係について定める労働基準法は、「給料(アルバイト代)は、労働者に対し、直接、全額を支払わなければならない」と規定していますので、「注文ミス分の商品代金を給料から天引きする」「無断欠勤などの際の“罰金”を天引きする」ということであれば、それだけで労働基準法違反となり、違法です。
このようなことを行うと、「30万円以下の罰金」という刑事罰としての「罰金」が科されることがあります(「罰金」の本来の意味です)。
もっとも、注文ミスによって雇用者である店側に商品代金分の損害が発生していることは確かですから、アルバイトに対し、商品代金分の賠償を求めること自体は違法でもなんでもありません。
次に、無断欠勤や遅刻の場合に罰金を定めることについてですが、この点についても労働基準法は、「雇用者は、労働者のミスなどについて、違約金(世間でいうところの罰金)を定めてはならない」と規定していますので、勝手に違約金を定めることも労働基準法違反となり、違法です。この場合、「6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金」が科されることがあります。
なお、遅刻や無断欠勤の場合、遅刻した時間分や欠勤した日の分は働いていないわけですから、「ノーワーク・ノーペイ」の原則にしたがい、その間の給料が支払われないのは当然です。
要するに、「遅刻1回につき罰金5000円」「無断欠勤は罰金1万円」といったように、給料の額や時間に関係なく違約金を取ってはいけないということであり、遅刻や無断欠勤などで働いていない分の給料を支払わなくてよいのは当然、というわけです。
「懲戒処分」としての「減給」は可能
最後に、ミスや無断欠勤などに対し、就業規則に基づく「懲戒処分」として「減給」することは可能です。つまり、アルバイトにも適用される就業規則に「~の場合、減給する」旨の規定があれば、就業規則に定められた手続きにしたがって、「減給」というある意味での罰金を取ることは可能です。ただし、この「懲戒処分」としての「減給」が、1回当たりの額は、1日の平均給料の半額を超えてはなりません。
アルバイトが時給1000円で1日8時間のシフト(休憩1時間)に入っている場合、1日の平均給料は7000円となりますので、1回の減給は3500円までということになります。なお、1、2回程度の遅刻で減給することは、そもそも「懲戒処分」の濫用として許されないと考えられています。
コメダのアルバイトの場合、注文ミスの際に商品代金分を弁償させることは許される場合もありそうですが、無断欠勤などの場合に一律の罰金を取ることは違法と判断される可能性が高いと思われます。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)