スターバックスの店舗(「Wikipedia」より/Corpse Reviver)
ウィズコロナ時代には、新型コロナウイルスと共生していかなければならない新しい生活様式が求められています。100年前に流行したスペイン風邪の例でいえば、約2年間にわたって3回の大流行が起きたといわれています。来年仮に東京オリンピックが開催されれば、世界中から観光客やアスリートが来ることになります。一度終息しても再び第2波、第3波が来る危険性を企業としては覚悟しておく必要があります。
世界の業界トップ企業はまだ模索中であるものの、急激な売上減少に見舞われるなか、スピード感をもって新しいビジネスモデルにチャレンジしているようです。本記事では世界最大のアパレルメーカーと飲食店のビジネスモデルの転換について取り上げます。
ZARAは赤字転落、1200店舗を閉鎖
「ZARA」などのブランドを展開する世界最大のファストファッションのアパレルメーカー、スペインのインディテックスは、2020年2~4月期(第1四半期)の決算を発表しましたが、その内容は悲惨なものでした。売上は前年同月比で44%減少し、純損益は4億900万ユーロの赤字に転落したのです。新型コロナによる外出自粛やテレワークへの転換により、店舗そのものに人が行けなくなったことが大きな要因でしょう。
一方で4月のオンラインでの売上は、前年同月比で95%増加しました。このためインディテックスは、オンライン販売強化と店舗の整理統合を進めると発表しました。具体的には、今後総額270億ユーロを投資し、2022年までにオンラインでの売上の占める割合を全体の25%にするとのことです。一気にオンライン化にビジネスモデルを転換するようです。
具体的には、新たに450店舗を開店する一方で、約7400の店舗のうちZARA300店舗を含む最大1200店舗を閉じると発表しました。なお、日本にある店舗が含まれるかどうかは不明です。
ZARAのマーケティングは、ほとんど広告をせずに店舗中心であったことを考えると、大きな経営戦略の転換といえると思います。ZARAといえば世界で最も成功したビジネスモデルの事例として、世界のビジネススクールの教材としても人気です。
インディテックスは1974年創業で、創業者のアマンシオ・オルテガ氏は9人兄弟の末っ子で貧しく育ちましたが、兄弟3人で下着を生産することから始めたといわれています。ファッション性に優れた服を高過ぎず安過ぎず手頃な価格で提供することで人気となりました。
200人以上のデザイナーが世界中の流行をいち早くキャッチして、それらをすぐにパターン化します。そして企画・デザイン・製造・販売までを自社で行うSPA(製造小売業)のビジネスモデルを採用しているため、コストダウンに成功しました。2週間ごとに新作を数量限定で投入します。このため、来店した顧客は店で「いいなぁ」と思ったらその場で買わないと売り切れてしまうかもしれないと考えるのです。ユニクロと比較して来店頻度が6倍とのデータもあります。
原則として広告宣伝をしません。最近は一定の広告宣伝も行っていますが、基本は一等地にある店舗自体が広告なのです。店舗のディスプレイは2週間ごとに新商品の投入とともに変更されます。
生産も基本的にはスペインで行ってきました。そして、なんと配送も自社のトラックを使っていました。生産コストが安い地域でつくるという発想ではなく、あくまでもスピードを重視しているのです。最近はポルトガル、中国、インド、トルコにも生産拠点を展開していますが、それらもすべてスペインに集められてチェックした後に、欧州各店舗には24時間以内、その他の地域にも48時間以内に配送するというスピード経営です。
このように、どれか一つを革新的なものにするのではなく、複数の点についてイノベーションを行って、結果としてひとつの目的、インディテックスの場合にはスピード経営を達成しているのです。
しかしながら新型コロナの影響で、今後はインディテックスを含めて小売業のビジネスモデルは一気にオンラインへとシフトしていく可能性が高いでしょう。そのためのデジタルマーケテイングに長けた人材の確保や物流拠点の整備など、解決するべき課題は山積みです。
スターバックスは約400店舗を閉鎖
一方、飲食店のビジネスモデルはどうなるでしょうか。
米国スターバックスは新型コロナの影響を受けて、今後1年半で米国とカナダにおいて最大400店舗を閉鎖する一方で、テイクアウトとデリバリー専用のスターバックス・ピックアップ店舗を約300店舗開店する計画を発表しました。ZARAの1200店舗閉鎖に続き、業界最大手はさすがに手を打つのが早いと感じました。不安要素はあるものの、瞬時に環境変化への対応策を出してくるスピード感こそが、強い企業の強さたる所以ではないかと思います。
スタバの新しい業態の店舗は、店舗に行く前に専用アプリで注文と支払いを行った後に商品を受け取りにいく方法か、ウーバーイーツなどによるデリバリーのみの店舗です。今後北米に約300店舗開店する予定とのことですが、日本でどうなるかは不明です。
スタバの売上は4月には前年同月比でマイナス65%を記録した週があったようですが、5月にはマイナス32%程度まで改善しているとのこと。しかし依然として大幅な売上減少は避けられないでしょう。なぜならオフィスに行かない人が多い時代には、家でコーヒーを飲む人が増えるからです。
ウィズコロナやアフターコロナの時代には、路面店舗は小さなテイクアウト店舗やデリバリー店舗に変わっていくかもしれません。不動産市況も悪化していますが、いち早くこうしたキッチンだけの店舗も広がる可能性はあるでしょう。
具体的には、「ゴーストキッチン」「クラウドキッチン」などさまざな呼ばれ方をしていますが、シェフにとって必要なオーブン、冷蔵庫、シンクなどの厨房設備が整ったスペースをレンタルする事業です。ウィーワークのシェフ版という人もいます。注文を受けたらウーバーイーツなどでデリバリーをする新しい業態のレストランです。
ゴーストキッチン、クラウドキッチンという新業態レストランの登場
すでにウーバーイーツは、2018年末までに世界で2000店舗、さらには世界65カ国で6000以上の都市で展開する予定との報道もありました。実際には一部で撤退などの報道もありましたが、新型コロナの影響で再び注目が集まっています。
ウーバーの創業者で最高経営責任者(CEO)だったトラビス・カラニック氏がセクハラ発言などで17年に同社から事実上追放されたあとに注力しているのが、クラウドキッチンズというベンチャーです。デリバリーはウーバーイーツのほか、ドアダッシュなど複数の業者と提携しているようです。最大の売りは2~4週間でお店を開店できるスピードと初期コストの低さでしょう。
同社のHPには「フードデリバリー(食品配達)市場は、今日の350億ドルから2年間で760億ドルに成長し、2030年までに3650億ドルに達すると予想されています」と記載されています。日本でも展開される日が来るかもしれません。日本の企業家の方にも期待します。
6月、ドアダッシュ(配送サービス会社)が新しい投資家としてのFidelity Management&Research Co.とDurable Capital Partners LPが主導するシリーズHの資金調達で約4億ドルを調達したと報道されました。発表によると、企業価値評価は約160億ドルとなり2年前の2018年のときから10倍に跳ね上がったとのこと。新型コロナの影響でデリバリーが急成長していることもあるのかもしれませんが、日本でも地域に根差したデリバリープラットフォームベンチャーが出てくれば面白いと思います。
ただ私見ですが、デリバリーで注文するのは、やはりその店の味と価格について消費者がすでに体験済であるとか評判が良いとか納得していることが重要なのではないでしょうか。たとえば「中華ならなんでもいい」と思って注文する人はほとんどいないでしょう。そういう意味では、すでにある程度顧客を持っているレストランや喫茶店が有利であると思います。地方の名店なども、このシステムを使えば一気に全国展開できるかもしれません。一方でシェフや料理人の確保や秘伝の味を守ること、さらにはデリバリー会社との力関係によるコスト上昇リスクなども考慮する必要があるでしょう。
いずれにしろ、新型コロナと共存する世界において、飲食店の新しいビジネスモデルとして検討する価値はあるのではないでしょうか。日本でも今後、ビル一棟キッチンスタジオで1階でデリバリーとテイクアウトができるようなクラウドキッチンビルが登場する日が来るかもしれません。またある地域に特化したデリバリー(配送)会社も期待できるかもしれません。
新型コロナの影響は企業の存亡にかかわる事態となってきていますが、ピンチをチャンスに変えられるかどうかの瀬戸際ですので、今こそ日本の経営者もスピード感をもって、新しいビジネスモデルへの転換を検討する必要性に迫られているのではないでしょうか。経営者としての力量が問われる時代になってきています。
(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)