今回はタクシー料金について考えてみたい。
東京23区などで、来年4月から初乗り410円という新しい料金体系が実施されるとの報道があったが、低迷するタクシー業界の「攻めの工夫」として取り上げられた。
具体的には、初乗り距離を約1kmに縮め、237m毎に80円を加算し、2km時点で730円になる。初乗りの距離が短くなり、運賃も安くなる。高齢者や外国人観光客などに、近距離でも気軽に乗ってもらえる運賃設定というわけだ。
タクシーは鉄道・バスなどとともに、地域における重要な公共交通機関だ。特にタクシーは、地域社会に密着したドア・ツー・ドアの少人数個別輸送が可能で、いつでも誰でも利用できる、機動性の高い交通手段だ。
重要な公共交通機関であるにもかかわらず、タクシーの輸送人数はこの10年で3割以上減少している。他方、2002年に小泉政権が進めた規制緩和で、タクシー台数が増加し、長引く不況でタクシー業界が雇用の受け皿として寄与したことも確かだが、結果として限られたパイを奪い合う構図になってしまった。
需要が減少している状況では、供給量を減らす、つまりタクシー台数を減らす、これが経済学の教えるところだ。しかし、規制緩和後やみくもにタクシー台数を増やす事業者が存在した。タクシーは収益率が低くても、走らせさえすれば収入を得ることができ、台数が多ければ乗り場の位置取りも有利という会社の判断がある。「鵜飼いの鵜」状態で、個々の運転手の収入は悪化するが、タクシー会社は儲かる。このような非合理的な行動をとる企業が存在した。供給が過剰になれば運賃が下がり需給がバランスするが、自由な運賃設定は制限されている。
仮に多様な運賃メニューがあっても、流しのタクシーの場合は手を上げてタクシーが止まってからでないと運賃がわからないし、次に必ず低運賃のタクシーが来るとも限らない。利用者にとっては不確実性が高いという特徴がある。
事業者の淘汰が必要
また、需給のバランスの状態がわかりにくい。なぜなら、需要と供給は同時に発生し、サービスは利用者が乗っているときのみ生産されているからである。空車で走っているタクシーはサービスを供給していることにはならない。したがって、「実車率」が高ければ空車の数が少ないため、利用者にとっては利便性が低い。実車率がかなり高くなれば、供給不足といえる。