新型コロナウイルス感染症の影響に伴う企業の経済活動の縮小に伴い、新卒採用を渋る企業も出始め、来春卒業の大学生らにとって厳しい就職活動が続いている。そんななか、とある企業から就職希望者に送付された1通の「採用説明会参加のお断りメール」が物議を醸している。
「男性の総合職入社が前提だったとはえらいこっちゃ」
東京都千代田区の建築用資材専門商社「冨士機材株式会社」の採用選考を希望していた女性が14日、Twitter上に「男性の総合職入社が前提だったとはえらいこっちゃ」(原文ママ、以下同)という文言とともに、以下のように同社からのメールを投稿したのだ。
「冨士機材株式会社でございます。
この度は、当社にご興味をお持ち頂きまして誠にありがとうございます。
メッセージにて失礼します。
本日はお詫びとご相談にてご連絡いたしました。
●●様からご予約いただきました説明会は【総合職】の説明会となりますが男性向けの 内容となっております。
女性向けの総合職説明会につきましては現在開催が検討中になっております。
●●様が一般説明会をご希望であればご都合の良いお日にちを以下よりご予約ください。引き続き総合職をご希望であれば詳細が決定次第、優先してお知らせいたします。誠に勝手ながら今回のご予約につきましては当社でキャンセル操作をいたします」
「説明等情報の提供での性差別」は違法
この投稿は15日午後1時現在までに約1万リツイートされ、投稿の返信欄には「今日同じ企業からメール来てへこんでた」「その業界未だに昭和だから女性=お茶汲み&男性社員のお嫁さん候補っすよー」などの声が上がっている。
一連の投稿が事実だとすると、違法行為にあたる可能性がある。厚生労働省や内閣府などで公開されている男女雇用機会均等法第5条では、採用に選考にあたって以下のような性差を理由とする差別を禁じている。
・募集、採用の対象から男女のいずれかを排除すること。
・募集、採用の条件を男女で異なるものとすること。
・採用選考において、能力、資質の有無等を判断する方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。
・募集、採用に当たって男女のいずれかを優先すること。
・求人の内容の説明等情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること。
今回の件は上記4つ目と5つ目の「募集、採用に当たって男女のいずれかを優先すること」「求人の内容の説明等情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること」に該当する。東京労働局雇用環境・均等部指導課の担当者は一般論として以下のように説明する。
「個別の企業の案件に関して一切お答えはできませんが、会社の総合職の採用説明会を男女別に行い、片方の性別のみを対象として情報提供を行うことや、応募者の女性に一般職を進める行為は男女雇用機会均等法に違反している可能性が高いです」
「昭和の経営では取引先からも敬遠される」
当サイトが同社に事実関係を確認したところ、「担当者不在で、後ほど折り返しご連絡します」とのことだった。同社から回答があり次第、追記する。
建設資材・住宅設備業関係者は今回の件を次のように語る。
「この業界はもともと体力勝負の世界ですから、『均等法がどうとうか、きれいごとを言うな』『俺らのやり方に文句を言うな』という経営者は多いでしょうね。ただ『自分たちが守ってきた昔ながらのやり方に合った新人がくればいい』というような『昭和の経営』は、今後は厳しいかもしれません。優秀な人材獲得ができないことにとどまらず、均等法などのコンプラを守っていない企業はより大手の取引先から敬遠され立ち行かなくなると思いますよ」
政府がここ数年、提唱している「1億総活躍社会」における経済成長戦略の目玉は「女性の登用」だったはずだ。ダイバーシティー社会の実現にはまだまだ時間がかかりそうだ。
(文=編集部)