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氷河期世代の格差の実態…非正規社員の既婚率は公務員の7分の1、女性の“出産格差”も

文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表
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『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実』(三浦展/朝日新書)

 6月12日に『コロナが加速する格差消費』(朝日新書)という本を上梓した。当初は9月くらいに団塊ジュニアとゆとり世代の格差と消費についての教科書的な本を書くつもりで、原稿も3月には7割方できていたのだが、3月に入ってコロナの感染が広がり始め、最初はクルーズ船に乗っていた富裕層が感染していたのに、次第に一般人、特に介護施設などで働く人たちの感染が増えて、どうもコロナは格差問題と絡んでいると直観し、出版を早め、コロナと格差消費というテーマで書き直したのである。

 アメリカでの警官による黒人殺人事件を発端に、6月4日現在で、アメリカのみならずイギリスでも抗議デモが盛り上がっている。歴史的な黒人への差別に加えて、コロナで感染死する人が低所得者の多い黒人に多いからである。しかもアメリカは健康保険に加入していない低所得者が多く、黒人で未加入の割合が高いといわれる。トランプは国民皆保険に絶対反対の立場だから、黒人から見れば、コロナに感染しても病院に行けず死んでいく黒人が多いことに強い反発があるわけだ。

 日本でも、非正規雇用者は雇い止めにあい、親の年収が低い学生は退学を余儀なくされている。学歴による年収、階層、結婚の格差についても本書は触れているが、せっかく大学に入ったのに退学しなければならない学生は本当にかわいそうだ。

 また学生は学費、生活費を稼ぐためにアルバイトすることが普通だが、コロナはアルバイト先も激減させてしまった。女子学生は、割の良いバイトとして水商売で働くこともあるが、それなどは最も減ったバイトである。学費は親が出すが生活費は自分で稼ぐという学生は多く、ファッション、化粧品などにお金のかかる女子学生が水商売のバイトをすることもあるようだ。

 だから休業要請下でもガールズバーで完全休業したところは少ないし、それどころか、都内の某繁華街では、夜10時から朝6時まで営業し、かつ地下にあるガールズバーもあった。

 そういうガールズバーに私も取材をしてみたが、付いた女子は2人とも地方出身、離婚家庭で、父親が学費を出すが生活費は自分で稼ぐという条件で東京に出てきていた。休業がもしもっと強く強制されれば彼女たちは大学をやめて田舎に戻らなければならないだろう。学歴格差が激しい現代において、そんなことを助長する政策が正しいといえるだろうか。

 にもかかわらず政府はのんきに9月入学の可能性を検討した。幸い見送られたが、留学をする一部の学生のために、なぜ小学校からすべて9月入学にしなければならないのか。まったく理解できない。私は大学を9月入学にすること自体は賛成だが、今この時期に小学校から含めて9月入学にする意味がわからない。小学校が9月入学なら幼稚園にも保育園にも影響が及ぶのであり、その保育園も一部休園で親が困っているというのに、どうしてのんきに9月入学の可能性を検討するなどということができるのか。庶民感覚ゼロの政権の体質をまたもや暴露したといえる。

氷河期世代の格差

 本書はこうした時々刻々と変化するこうした状況を踏まえながら、まず氷河期世代の格差を検証した。氷河期世代は大卒時に正規雇用になれず、その後ずっと非正規で働いてきた人々が多いので、正規雇用になれて40代になった人と、ずっと非正規で40代になった人では収入、貯蓄などにかなりの格差がある。それを三菱総合研究所の3万人アンケートによって統計的に調べたのである。

 その結果、男性の正規雇用では階層意識が「中の上」以上が15%、「中の下」以下が44%なのに、「非正規」では「中の上」以上は5%しかなく、「中の下」以下は68%もいた。また公務員は「中の上」以上が25%もあり、「中の下」以下は24%しかなかった。さらに夫婦共に公務員である人では「中の上」以上が33%にもなる。公務員を最近「上級国民」と呼ぶ傾向があるが、この格差を見てはそれも当然と思える。

 非正規で年収が低い男性は結婚をしにくい傾向があり、そのためますます下流が増える傾向がある。たとえば男性の場合、年収が400万円以上になって既婚が半数を超える。非正規で400万円以上を稼ぐには難しいだろう。

 学歴別では4大だと既婚が半数を超えるが、短大・専門では既婚と離別を合計して52%であり、高卒以下では6割が未婚である。

 また職業別では正規雇用は64%が既婚、公務員は76%が既婚だが、非正規は86%が未婚であり、既婚は10%しかなく、離別が4%いる。14%が結婚したがそのうち3割が離婚したことになる。

 他方、女性が結婚できる条件を年収別に見ることは難しい。結婚前は高収入をとっていても結婚後は専業主婦とか非正規雇用になったりするため年収が下がる人が多いからである。

正規社員と非正規社員の出産格差

 そこで女性については、既婚以外の女性について、現在交際している異性がいるかを集計した。交際しているから結婚するとは限らないが、交際せずにいきなり結婚することは考えにくいので、交際率が結婚可能性と比例するといえるはずだ。

 いろいろ集計すると、交際率は職業別にやや差があり、正規雇用女性の28%が交際しているのに対して、非正規雇用女性は22%であるなど、正規雇用が有利である。

 それより差が付くのは出産である。25〜39歳の既婚女性について、5年以内に子供をもうけると思うかを集計した。夫婦合計年収別では600万円以上だと子供をもうけていると思う人が36〜38%と多い。

 自分の学歴では4大で38%、修士・博士で42%なのに、高卒以下では24%と格差が激しい。夫の学歴ではやはり4大で36%、修士・博士で44%と高く、高卒以下では26%と格差がある。

 自分の職業別では、公務員女性の63%が子どもをもうけていると思うと回答しておりダントツである。正規雇用は41%だが非正規雇用は26%と格差が大きい。夫の職業別では、公務員が42%で高い。長期的に安定しているからである。会社役員であることは、あまり出産には関係しない。

 このように見ると、女性も男性も4大以上の学歴で、正規雇用、できれば公務員であり、共働きで夫婦合計年収が600万円以上あれば子供をもうけやすいということである。

 出産格差ともいうべきものがここにはある。正規雇用、特に公務員だと育児休暇制度も充実しており、正規雇用でも大企業であるほど充実している。一度正規雇用となって結婚、出産すれば、長期に休暇を取りながら収入もあり、復職もできる。

 しかし非正規だと、コロナなどでいつ解雇されるかわからない上に、育児休暇もないので、働いている途中で妊娠したら離職しないといけなくなる。これで少子化が解決するはずがない。

 以上のようにアラフォーとなった氷河期世代の現段階での格差をコロナと絡めながら本書は論じている。コロナが可視化した格差の状況を客観的に理解する一助としてお読みいただければ幸いである。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)

三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

82年 一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。
86年 同誌編集長。
90年 三菱総合研究所入社。
99年 「カルチャースタディーズ研究所」設立。
消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。
著書に、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、主著として『第四の消費』『家族と幸福の戦後史』『ファスト風土化する日本』がある。
その他、近著として『データでわかる2030年の日本』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『富裕層の財布』『日本の地価が3分の1になる!』『東京郊外の生存競争が始まった』『中高年シングルが日本を動かす』など多数。
カルチャースタディーズ研究所

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