明治期に欧米に次ぐ早さで教育制度を整備し、戦後は小中学校の義務教育化を図るなど、公教育に力を入れてきた日本。しかし、近年、親の収入などによる格差が子供の教育や学力にも反映される「教育格差」が大きな問題になっている。
なぜ、親の収入が子供の学力を左右してしまうのだろうか。子供の貧困問題や教育格差の解決を目指して、貧困家庭の子供たちに塾や習い事で利用できる学校外教育バウチャーを提供する事業を展開している公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」の代表理事を務める今井悠介氏に話を聞いた。
親の経済力と子供の学力は比例する?
教育格差が歴然と現れるのは、主に大学進学時だ。2015年に日本労働組合総連合会が行った「大学生・院生の保護者の教育費負担に関する調査」によると、3人に1人が「金銭的負担がネックになり子供の進学希望を、十分に叶えてあげられなかった」と回答している。
この回答率は、世帯年収が下がるにつれて高くなり、500万~600万円未満で50.6%、200万~400万円未満の世帯では61.6%におよぶ。
また、「子供を大学で学ばせるための費用は高いと思う」という質問には90.3%が「そう思う」と回答している。親の経済力によって大学進学率に差がつく理由について、今井氏は「問題なのは、公的な教育投資が少ないことです」と語る。
「日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも、GDPに占める公的な教育費の割合が最低ランクで、国や社会が教育費用を負担しない分は家庭からの私費で賄われています。そのため、所得格差が教育格差に直結しやすいのです。日本の学力は世界的に見ても高水準ですが、それは国民が多大な私費負担をしているからだといえます」(今井氏)
私費負担する教育費の中でも、学習塾や民間の教育産業など、学校外教育費の割合は高い。矢野経済研究所の「教育産業市場に関する調査結果2014」によると、05年度以降の10年間、教育産業の市場規模は9000億~9600億円で推移している。
一方、同じ10年間に10~14歳の人口は約603万人から約571万人となり、15~19歳も約659万人から約600万人に減少している。これだけ少子化が進んでいるにもかかわらず、教育産業は衰退していないのだ。
教育格差が引き起こす「貧困の連鎖」
しかし、「親の収入が少なくても、個人の意欲と努力さえあれば、高い学力を得られるはず」と考える人もいるかもしれない。実際、貧しい家庭で育ちながら社会で成功している人物も存在する。しかし、今井氏は「そういった子供たちばかりではありません」と語る。