新型コロナウイルスの感染拡大は、学生の就職活動や企業の採用活動にも多大な影響を与えている。リクルートキャリアの研究機関である就職みらい研究所の「就職白書2020」によると、昨年末の段階では就活の“売り手市場”は続いていたが、2020年になって新型コロナショックが直撃した。20年卒の一部では、内定が取り消されるケースも報じられた。
学生も企業も対面からウェブでの活動にシフトする中で、21年卒の就職戦線はどうなっていくのか。就職みらい研究所の増本全所長に聞いた。
コロナ禍で企業の合同説明会が中止に
――新型コロナの影響を受ける前は、依然として人手不足の状況が続いていたのでしょうか。
増本全氏(以下、増本) 「就職白書2020」によると、20年卒の採用状況は2社に1社以上が充足できない状態で、いわば人手不足が続いていました。その中で新型コロナの感染が広がり、各就職支援会社が行っている合同企業説明会が中止になるなど、企業も就活生も計画の大きな変更を余儀なくされたわけです。そして、今は採用活動にウェブを活用する企業が増えています。
――どのくらいの企業がウェブを活用していますか。
増本 就職みらい研究所が3月上旬に実施した「21年卒採用活動プロセスの見直しの現状に関する調査」では、ウェブを活用した自社説明会・セミナーの実施予定の理由について聞き、回答は「当初より実施予定だった」が35.7%、「新型コロナウイルスの影響を受けて実施を決定」が28.5%でした。
一方、ウェブを活用しないと回答した理由については、「ノウハウがない」(52.2%)、「設備が十分でない」および「あまり必要性を感じていない」(43.3%)の順に多いという結果になりました。
――「リクナビ2021」では、今回の事態を受けてどう対応していますか。
増本 まず、会社説明会や選考などについて対応を明らかにしている企業を特設ページにまとめたり、企業の選考方法や採用スケジュールの変更について広く情報を伝えたりして、就活生の不安軽減に努めています。
また、掲載企業の一覧で「さらに絞り込む」を選択すると、「業種」「地域」「職種」のほかに「有給休暇の平均取得日数」など、入社後の働き方や制度などの観点で細かく絞り込むことができます。新型コロナへの対応を表明している企業の中から、自分に合った企業を見つけることも可能です。
さらに、個社の説明会をサイト上で視聴できる動画サービス「リクナビ FaceMovie」を開始しました。ウェブでの説明会は、ライブ版もあれば、採用担当者と就活生がコミュニケーションを取る中でURLを共有して視聴するなど、さまざまなパターンがあります。このサービスは、事前に録画された動画説明会で、時間や場所を問わずスマホで視聴することができます。
ウェブ面接で就活生が不安になる理由
――今、就活生は何が一番の不安なのでしょうか。
増本 まず、就活自体の先行きが不透明なことでしょう。また、対面と違って、ウェブでの就活では企業の社風や採用担当者の人となりについて体感を得られない点も不安になっています。
面接についても、ウェブでは正当に評価されるのかどうかわからないという声もあります。ウェブ面接では採用担当者に自宅の様子が見え、生活音も聞こえます。たとえば、何か変なものが映ってしまったり、ネット回線が切れてしまったり、家族の声が入ってしまったりしたら、評価にどう影響するのか。そうした点が不透明なことを不安視しています。
――では、採用を行う企業側の不安点はなんでしょうか。
増本 もともと、企業は多くの就活生と直接会ってコミュニケーションを重ねたいという意向を持っています。今はウェブに切り替えざるを得ませんが、そんな中でも、就活生とコミュニケーションできるチャネルを増やしたいという思いが強いです。ウェブでは一方的に説明する分にはいいですが、認識のすり合わせなどには課題があるという声は、企業側からも聞こえてきています。
就活生に「どのプロセスで入社意欲が高まったか」と質問すると、「面接」という回答が多いです。企業はすべての就活生に一律のメッセージを出しがちですが、学生は自分あてのメッセージを欲しています。そのため、個別面接で個別のメッセージを発信してあげることで、就活生にとってはその企業に対する意識が変わります。企業は情報開示に加えて、就活生との相互理解の機会をいかに多く設けられるかがポイントになるでしょう。
――就活生が気になるのが、21年卒の内々定・内定出しの時期です。
増木 企業側は、就活生のレベルが自社の合否ラインを上回れば内定を出したいと考えており、実際に3月上旬から内定出しをしている企業もあります。内々定・内定出しの山場は5~6月頃に来ると思われますが、やはり企業の採用活動は長期化および多様化していくのではないでしょうか。
大手企業や人気企業であれば、6月に採用活動を終えるケースもありますが、多くの企業は採用プロセスを一部変更したり、後ろ倒したりしている様子がうかがえます。ただ現状は先行きが不透明な状況ですので、ここで申し上げた時期についても、後ろにずれ込む可能性はあります。
「コロナ危機で内定取り消し」の実態
――今回のコロナ危機では、就活生の内定取り消しも報じられています。
増木 正当な手続きに則って企業から内定を受けていれば、その時点で労働契約が成立しているわけですから、企業は簡単に取り消すことはできません。確かにそうした事態も起きているようですが、内定取り消しを行った企業を調べると、今後の事業継続が困難であったり、そもそも採用を行うような状況ではなかったりするケースもあります。
――今後のスケジュールはどうなるのでしょうか。
増木 企業への「採用数をどうしますか」という質問には、当初計画から「変更しない」が約半数、「検討中」が約3割、「減らす」は12.7%です。今後は、採用スケジュールの見直しの動きは注視すべきでしょう。いずれにしろ、この機会に就職・採用活動へのウェブ導入が進み、今後はウェブとリアルを並行的に活用することがポイントになると思われます。
(構成=長井雄一朗/ライター)