ビジネスジャーナル > 企業ニュース > “ブランド・スイッチ”をどう防ぐ?
NEW
白井美由里「消費者行動のインサイト」

自社顧客の“ブランド・スイッチ”をどう防ぐ?バラエティ・シーキングに関する研究

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授
自社顧客の“ブランド・スイッチ”をどう防ぐ?バラエティ・シーキングに関する研究の画像1
「Getty Images」より

 製品やサービスの選択において、バラエティ(多様性)を求め、ブランドをスイッチする行動のことを「バラエティ・シーキング」といいます【註1】。メーカーにとって、自社ブランドを繰り返し購入するブランド・ロイヤルティの高い顧客を獲得することは重要な目標ですが、その達成はブランド・シーキングによって阻まれてしまいます。ブランド・シーキングとはどのようなものなのでしょうか。バラエティ・シーキングは選択の基本的側面であり、これまで数多くの研究が行われてきました【註2】。今回は、そのメカニズムを理解することを目的として、消費者行動研究の知見をいくつか紹介したいと思います。

バラエティ・シーキングは、刺激欲求によって生じる

 急いでいるときはともかくとして、刺激のない選択は退屈です。お気に入りの製品を購入していても消費が繰り返されることによって購買意思決定は単純化し、ごく普通のありふれた選択へと変化していきます。複数ブランドの特徴を理解したうえで一つを選ぶような購買意思決定は手間と時間がかかるため、特に購買頻度の高い日用消費財では単純化が好まれます。

 しかし、単純化に伴って生じてくるのが刺激への欲求です【註3】。人は最適な刺激水準を持っていて、選択時の刺激がこの水準を下回ると刺激欲求が生じます。そしてこの欲求を満たす手段がバラエティ・シーキングなのです。ただし、バラエティ・シーキングは購買意思決定を複雑にするので、その後の購買意思決定ではより単純化した選択が好まれます。つまり、購買意思決定は単純化と複雑化の繰り返しと捉えることができます。

 なお、刺激欲求は製品に飽きが来たときや新奇性への関心が高まったときに生じるので【註1】、バラエティ・シーキングは消費から得られる楽しさや満足を最大化するために行われると考えることができます。お菓子、レストラン、音楽などの楽しさや喜びを感じる快楽的消費で発生しやすいことがわかっています【註4、註5】。

 バラエティ・シーキングの原因が刺激欲求であるならば、買い物環境に別の刺激があれば、バラエティ・シーキングは起きにくくなると考えらます。このことを実証したのがメノンとカーンです【註3】。メノンらは、被験者の大学生に前日視聴したテレビ番組とCMを想起してもらうセッションに4日間連続で参加してもらい、毎回スナックと飲み物を一つずつ謝礼として選んでもらいました。このとき飲み物の選択肢を3パターン用意し、同じ4種類のコーラドリンクを4日間提示する「刺激なし」条件、4種類のコーラドリンクと4種類のレモンライムドリンクを交互に提示する「中程度の刺激」条件、および4種類のコーラドリンクと2種類のフルーツジュースを交互に提示する「強い刺激」条件のいずれかに被験者を割り当てました。また、最適刺激水準には個人差があるため、被験者を高低2グループに分けました。

 分析したのは被験者が4日間に選択した飲料の種類で、多いほどバラエティ・シーキング傾向が強いことを意味します。結果は、バラエティ・シーキングは、最適刺激水準が高い場合には強い刺激があれば減少するものの、低い場合には中程度の刺激でも減少することを示しました。つまり、買い物環境が刺激的であればブランド・スイッチは起きにくいということになります。

 この結果から、豊富な品揃えの提供が難しい小規模な小売店は、売り場のレイアウトやデコレーションを時々変更するなどして刺激的な買い物環境を創り出すと、買い物客の刺激欲求を満たすことができ、それによって乏しい品揃えへの不満を抑えることができると思われます。

バラエティ・シーキングは、将来の自分の欲求があいまいなときに生じる

 今日の自分の欲求はわかっても、明日の欲求はわからないことがあると思います。何日か分の食品や買い置き用の食品の買い物では、このような状況で選択することが多いと思います。サイモンソンは、こうした自分の将来の選好が不確実な状況下では、バライエティ・シーキングが生じやすいことを実証しています【註6】。

 サイモンソンは、7種類の食料カテゴリーそれぞれに様々なアイテムをリストし、被験者にそのなかから買い物してもらう実験を行いました。被験者は、3日分をまとめて買い物をする場合と1日ずつその日の分を3日間連続して買い物する場合のどちらかに割り当てられました。各カテゴリーの製品を毎日1個消費すると仮定しているので、3日分の買い物では各カテゴリー3個を選択することになります。

 分析の結果、異なるアイテムを選択するバラエティ・シーキング傾向は、全カテゴリーに共通して3日分をまとめて買い物するときのほうが強く見られました。つまり、将来の自分の選好はわからないので、バラエティを選択することで選好の変化に対応できるようにしているのです。また、将来自分が好みそうなものを一種類だけ選ぶよりも何種類かを選ぶほうが簡単であるということもその一因です。

バラエティ・シーキングは、ポジティブな気分のときに生じる

 ポジティブ感情を持っているときは、情報への関心が増し、創造的かつ柔軟性のある情報処理が行われるので、対象を様々な側面から理解するようになります【註1】。したがって、消費者がブランド選択時にポジティブな感情を持っている場合、ブランド固有の特徴やブランド間の違いに焦点が向けられるので、ブランド選択に刺激欲求が生まれブランド・シーキングが生じやすくなると考えることができます。カーンとイセンはこのことを実証しました【註7】。

 カーンらは、翌月から平日は午後のおやつにクラッカーを食べることにしたと仮定してもらい、25日分のクラッカーを7ブランドから選択してもらう実験を行いました。このとき選択肢に2パターン用意し、7ブランドすべてが有名ブランドの条件と味が劣るとの認識がある減塩クラッカーのブランドが複数含まれる条件のどちらかに被験者を割り当てました。また、被験者の半分にはセッション前に謝礼としてリボンが付いた飴のパックをプレゼントし、ポジティブ感情を喚起させました。

 その結果、ポジティブ感情を持った被験者は、有名ブランドのみの選択肢を提示されたときにブランド・スイッチを多く行いました。評価の低いブランドがある選択肢ではポジティブ感情があってもバラエティ・シーキングは見られませんでした。人はポジティブな感情を持っているときは、ネガティブなことは避けたいと考える傾向にあります。選択肢に評価の低いブランドが含まれていると、バラエティ・シーキングに魅力を感じなくなるのです。

バラエティ・シーキング傾向は一日の中で変化する

 最近では、体内時計リズム(サーカディアンリズム)の影響を分析した研究が2つ発表されています。まずグロらは、一日の中で生理学的覚醒水準が低く眠気が残る朝の時間帯は刺激欲求が弱く、バラエティ・シーキングが減少すると予想しました【註2】。6色の蛍光ペンから6本を選でもらう実験からは、被験者の選択した色の種類は、選択時間が午前7:30では3.62、午後12:30では4.36、午後5:30では5.04となり、予想通りの結果が得られています。

 また、体内時計リズムを含めた分析からは、昼型と夜型の被験者は眠気が残る朝の時間帯よりも昼や夜の時間帯のほうがバラエティ選択を行う傾向にあるのに対し、朝型の被験者は時間に関係なく、朝でもバラエティ選択を行う傾向にあることを確認しています。

 もう一つはファングらの研究で、グロらが示した結果は消費者に眠気を覚ましたいという覚醒欲求がある場合には異なることを示しています【註8】。ファングらは、バラエティ・シーキングは眠気を覚ます効果があるので、朝型の人は眠気が強くなる夜の時間帯に、夜型の人は眠気が強くなる朝の時間帯にバラエティ・シーキングを行うと考えました。大学生に午前10時と午後10時に行なわれるセッションのどちらかに参加してもらう実験を行い、セッションでは4種類のキャンディバーをそれぞれ別々のボウルにたくさん入れて提示し、それらの中から4個を選択してもらいました。結果は予想と一致しており、被験者が眠気を感じる時間帯に選択した場合には、覚醒欲求からバラエティ・シーキング傾向が強くなりました。つまり、セッション参加のように眠気を覚まさなければならない状況では覚醒欲求が強まり、刺激が得られるバラエティ・シーキングが行われるということになります。

 以上の研究から、バラエティ・シーキングは、同じ消費者であっても様々な状況によって変化することがわかりました。ところでバラエティ・シーキングは、外的な要因によって発生することがあり、この場合は「派生的バラエティ・シーキング」と呼ばれます【註1】。複数のニーズ、複数の使用者(家族のメンバー間で好みが異なるなど)、あるいは複数の消費状況がある場合や、欲しい製品が品切れだったり他のブランドが値引きされていたりするときに生じます。

 今は品質に大きな違いを感じない類似品が増え、ブランド・スイッチはしやすくなっています。しかし、新製品を購入するときには失敗のリスクを伴うので、バラエティ欲求がなければブランド・スイッチは容易には行われません。もしも企業が消費者のバラエティ欲求を高めて自社ブランドへのスイッチを促したいと考える場合には、バラエティ・シーキングが生じやすい状況を検討し、そこで自社製品をアピールするとその可能性は高まると思われます。

(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

【参考文献】

【註1】Kahn, B. E. (1995), “Consumer variety-seeking among goods and services,” Journal of Retailing and Consumer Services, 2 (3), pp. 139-148.

【註2】Gullo, K., J. Berger, J. Etkin, and B. Bollinger (2019), “Does time of day affect variety-seeking?” Journal of Consumer Research, 46 (1), pp. 20-35.

【註3】Menon, S. and B. E. Kahn (1995), “The impact of context on variety seeking in product choice,” Journal of Consumer Research, 22 (3), pp. 285-295.

【註4】Van Trijp, H. C. M., W. D. Hoyer, and J. J. Inman (1996), “Why switch? Product category-level explanations for true variety-seeking behavior,” Journal of Marketing Research, 33 (3), pp. 281-292.

【註5】Ratner, R. K., B. E. Kahn, and D. Kahneman (1999), “Choosing less-preferred experiences for the sake of variety,” Journal of Consumer Research, 26 (1), pp. 1-15.

【註6】Simonson, I. (1990), “The effect of purchase quantity and timing on variety-seeking behavior,” Journal of Marketing Research, 27 (2), pp. 150-162.

【註7】Kahn, B. E. and A. M. Isen (1993), “The influence of positive affect on variety seeking among safe, enjoyable products,” Journal of Consumer Research, 20 (2), pp. 257–270.

【註8】Huang, Z., Y. Liang, C.B. Weinberg, and G. J. Gorn (2019), “The Sleepy Consumer and Variety Seeking,” Journal of Marketing Research, 56 (2), pp. 179-196.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

自社顧客の“ブランド・スイッチ”をどう防ぐ?バラエティ・シーキングに関する研究のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!