キグナス石油の100%子会社である「キグナス石油販売」が、ホームページ上で虚偽の宣伝をしていたとの指摘を受けた。自社ブランドのハイオクガソリンについて、「通常のガソリンのオクタン価は90程度ですが、ハイオクガソリンα―100のオクタン価は、100です」と宣伝していたが、実際のオクタン価は100ではなかったという。
キグナスは自前の製油所を持っていない。かつては東燃ゼネラル石油(ENEOS)やJXTGエネルギーから調達していたが、2020年からは仕入れ先をコスモに換えている。そのコスモによれば、ハイオクのオクタン価はレギュラーガソリンと比較すると高い値ではあるものの、正確に100とは告知していないとのこと。キグナスは早速、ホームページ上の説明を「ハイオクガソリンは通常のガソリンと比べオクタン価が高くなっている」と改める対応をした。
公的なJIS規格によると、レギュラーガソリンのオクタン価は89以上、ハイオクガソリンは96以上と定められている。したがって、キグナスのハイオクガソリンのオクタン価が100ではなくとも96以上であるのなら粗悪ガソリンとは言えず、ガソリンの質が問われているのではなく、ホームページの表示違反にすぎない。
オクタン価は、ガソリンの自然着火(ノッキング)のしやすさの指標である。数字が高ければノッキングが発生しづらい。高圧縮比の高出力エンジンはノッキングが発生しやすい。ハイパワーモデルの多くが耐ノッキング性質の高いハイオク仕様(プレミアム)となっているのは、それが理由だ。
ただし、最近の電子制御インジェクションエンジンは、ノッキングをセンサーによって点火時期を自動に調節する機能が組み込まれている。かつてのキャブレター時代のように、エンジン本体から「カリカリカリ」と異音がすることもなくなった。壊れることもない。確かに出力低下は免れないが、その違いはわずかであり、オクタン価に注目されることはなくなった。
ハイオク仕様車にレキュラーを入れると壊れる?
ちなみに、かつてレース用エンジンには、ハイオクをさらに超えるオクタン価のガソリンが使われていた。サーキット内の常設ガソリンスタンドでは、ハイオクとは別にレース用ガソリンが販売されていたのだ。
だが最近はレース仕様でも、一般で販売されているハイオクガソリンを使用する。それでも600馬力、700馬力にも達するレース用エンジンが24時間レースにも耐えてしまうのだが、オクタン価へのこだわりは低くなった。キグナスの表示ミスは、そんな時代の間隙を突いた不正だったのかもしれない。
そもそも、ドライバーにとってオクタン価の違いは、意識することができるレベルなのだろうか。筆者は首を横にふりたい。ハイオク仕様車にレキュラーガソリンを注いでも、すぐさま車両が故障するわけではないし、出力の違いを感じるドライバーは少ないだろうと思う。
「ガソリンスタンドの従業員に『ハイオク仕様車にレギュラーガソリンを給油すると壊れますよ』と言われましたが、本当でしょうか?」
そんな質問を受けることも少なくないが、答えは「否」だ。出力低下に目をつぶるならば、すぐさま故障の原因になるわけではない。
それよりもむしろ、給油によって重量が増すことのほうが体感的な負荷が高い。ガソリンタンクが空の状態で給油所に飛び込み、満タンにする。およそ大人1人分の重量がガソリンタンクに注がれる。それによる加速の悪化に包み込まれてしまう程度の出力低下である。
もちろん、プレミアム仕様にはハイオクガソリンを給油することを推奨する。だが、それを間違ったからといって深刻になる必要はない。キグナスの表示ミスは褒められたことではないが、少なくともクルマにとっては大きな負荷ではない。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)