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「21世紀の自動車大航海」(9月15日)

日本車がベンツやBMWに「絶対に」勝てない理由

文=清水和夫/モータージャーナリスト

日本車がベンツやBMWに「絶対に」勝てない理由の画像1メルセデス・ベンツ E63 AMG(「Wikipedia」より/Thomas doerfer)
 今回はブランドについて考察してみたい。日本メーカーは、とかくこのジャンルが苦手だ。どうしてもいいものを安くつくろうとするあまり、いいものを高く見せる色気が不足しているように感じる。

 たとえば、独ダイムラーのブランドであるメルセデス・ベンツのなかでも特に高級志向のAMG、独バイエルン発動機製造(BMW)の子会社であるBMW M、独アウディのRSという、3つのチューニングメーカーは個性的で魅力的だ。そこでドイツの高級車メーカーが、どのようにしてブランドを構築したのか、チューニングというマニア向けのジャンルを開拓した実例に基づいて書いていこう。

強烈なエンジン音が特徴のAMG

 AMGは2人のメルセデスのエンジニアがつくった会社だ。当時、モータースポーツを禁止していた会社に嫌気が差し、“脱サラ”して興したのである。彼らは持ち前の情熱でメルセデスを改造し、ツーリングカーレースに参戦。今ではAMGはメルセデス・ベンツのひとつの部門となっている。10年以上前は英マクラーレンと組んでSLRを開発し、カーボンシャシー(フレーム)を勉強していた。今ではF1チームでも力を発揮しており、エンジンだけでなく車両全体を開発できるまでに成長している。

 そもそもAMGは、エンジンに強烈な個性があった。彼らが生み出すV8はあえて獰猛な音を奏でる。その理由を開発エンジニアに聞いたところ、「加速力よりもエンジン音のほうが記憶に残りやすい」というメルセデスの心理学者からの提案があったからだという。加速力と音こそAMGのアイデンティティだったのだ。昨年発表されたAMG GTはマシン全体の完成度が高く、AMGに対するイメージが変わってしまうほどである。エンジン開発専門会社から大きく成長した完成車メーカーというのが、今のAMGの姿ではないだろうか。

ステアリングが特徴のBMW M

 BMW Mは、BMWのモータースポーツ車両を開発するために設立された会社で、レースエンジニアリングを得意とする。3シリーズをベースにM3を開発し、80年代には自動車レースのグループAを席巻した。初期に搭載されたエンジンは自然吸気の2.5リッター4気筒をチューニングしたもので、レースでも使えるパワフルなエンジンとカミソリのような切れ味のステアリングが特徴だった。

 この初代M3の成功で「M」の神話がつくられていく。だが、Mの走りはただの神話ではなくリアルだ。その真髄はステアリングにある。M3以外ではM5も人気だが、AMGと違ってエンジンよりもハンドリングの気持ち良さが光っていた。また、M1というスーパーカーを開発し、80年代はF1のエンジンも開発している。モータースポーツのために生まれたM社の伝統は最新のM3やM4にも受け継がれている。

AWD が魅力のRS

 AMGやMモデルに比べて後発なのがRSだ。このシリーズはクワトロという別会社が担当する。ひと昔前は英国のコスワースを傘下に置いてエンジンを開発していた。RSの前身としてはポルシェがチューンドアウディの開発を行っていたこともあった。ラインアップではワゴンやSUV(スポーツ用多目的車)にも力を入れているのが特徴である。

 これは、アウディがどこで強みを発揮するのか、商品戦略の巧みさを表していると思う。RSは内外装にデザインの一貫性を求めているし、洗練されたスタイルこそがRSの魅力だ。また「4」を意味するクワトロという社名の通り、現在のRSはすべてAWD(四輪駆動)である。

 AMGやMモデルはFR(後輪駆動)が主力であるのに対してRSはすべてAWDで、サーキットを走るとアンダーステアが出そうに思えるが、実際はかなりゴキゲンなハンドリング性能を持っている。AWDでも軽くドリフトできる操縦性はうれしい限りだ。

 AMGやBMW M、RSはいずれも劣らぬ個性を持ち合わせている。日本にも、このような強烈な個性を持ったブランドが登場することを願っている。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)

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