日産では9月、商品統括の副社長だったアンディ・パーマー氏が退社し、英高級車メーカー、アストン・マーチンのCEOに転じた。パーマー氏は2002年に日産の英現地法人から日産本体に入り、ゴーン体制を支える腹心の一人だった。13年11月、次期社長の有力候補と目されていた志賀俊之COO(最高執行責任者)が業績不振の責任を取って退任した後、パーマー氏は副社長に昇格。3人の副社長による次期社長レース候補者の一人に浮上したばかりだった。後任には仏ルノーのフィリップ・クラン副社長が急遽登板した。
このほかにも、高級車部門インフィニティの責任者だったヨハン・ダ・ネイシン専務執行役員が退社し、米ゼネラル・モーターズ(GM)の高級車部門キャデラックのトップに就任。日産-ルノーの広報を横断的に統括していたサイモン・スプロール常務執行役員も、米テスラ・モーターズの副社長広報責任者に転身した。主要幹部が3人も今年に入り日産を去ったことになる。
日産の親会社であるルノーでも、幹部の流出が起こっている。COOの職を昨年解任されたカルロス・タバレス氏が4月、ライバルである仏プジョー・シトロエン・グループのCEOに就任し、ルノーに衝撃を与えた。ゴーン氏は相次ぐ幹部の流出について「海外企業に比べ役員報酬が低いため(人材の)草刈場になっている」(9月10日付産経新聞より)と説明している。
ルノーでは4月の株主総会でゴーン氏の取締役再任が承認され、今後4年間、CEOとしてルノーのかじ取りを担うことになった。2年間の日産の取締役任期は来春切れるが、再任は確実視される。日産の中期経営計画が終了する17年3月期まで日産のトップを続けるとの見方が有力だ。つまり、他の幹部にしてみればゴーン氏の後継として経営トップになるチャンスが遠のいたことを意味するため、日産に見切りをつけたことが主要幹部の流出につながったといえる。
●進むゴーン氏への権力集中
日産は今後の事業の柱に位置付けた電気自動車(EV)が失速し、国内大手自動車メーカーの中で独り負けの状態が続く。ハイブリッド車を軽視したEVに急傾斜したのはゴーン氏の戦略だったが、ゴーン氏が失敗の責任を取ることはなく、昨年11月、業績低迷の責任を取るかたちで志賀COOを更迭。ゴーン氏への批判が集まった。
ゴーン氏は社内にNo.2をつくらないことで権力の座を強固なものにしてきた。ルノーではカルロス・タバレスCOOを解任しナンバー2のポストであるCOOを廃止し、日産でも志賀COOの更迭に伴いCOO職を廃止した。ルノー、日産ともにゴーンCEOに権限が集中する体制を築いた。株主総会でもゴーン氏は「任期は株主が決めること」と公言してきた。日産の筆頭株主は43.4%の株式を保有するルノーであり、そのトップのゴーン氏が日産における自分の任期を決めると言っているのと等しい。
日産は低迷するEV販売の起爆剤として、20年の東京五輪のオフィシャルカーに自動運転のEVが採用されることを狙っており、「それを見届けるまでゴーン氏は続投するつもり」(業界関係者)との見方もある。しかし、政府内には、東京五輪のオフィシャルカーには水素で走る燃料電池車を大量に採用し、「エコ五輪」を世界にアピールしようとする動きもある。具体的には、選手村と各競技場の間を結ぶ選手の送迎に燃料電池車を大量に導入する方針だというのだ。燃料電池車の開発で先行するのはトヨタ自動車とホンダであり、トヨタは14年度中に世界初の燃料電池車を市販する計画だ。
東京五輪における日産の“EV販促計画”が頓挫すれば、ゴーン氏を取り巻く環境はますます厳しくなることが予想され、幹部を含めた、さらなる人材流出を招きかねない。
(文=編集部)