全銀協は「社外取締役の選任は、すべての企業に適合的なものであるとは限らない。社外取締役を法で一律に義務付けることは、かえって企業が自社に最適なガバナンス態勢を構築する際の妨げになるおそれがある」としている。さらに全銀協は、「一律に社外取締役の選任を義務付けることは、本来それを必要としない銀行・企業にとっては、経営・管理コストのみが増大するという弊害が生じる」と強硬な反対論を展開している。融資先などとの利害が錯綜するので誰を社外取締役に選ぶかが難しいという、”お家の事情”はたしかにあるが、要は「社外(取締役)から銀行経営についてガタガタ言われたくない」ということなのだ。
経団連では、米倉会長の住友化学などの大手化学メーカーや、鉄鋼などの重厚長大型企業が、一斉にノーを唱えている。
法務大臣の諮問機関である法制審議会の会社法制部会(岩原紳作部会長・東京大学教授)が示した会社法改正試案には、「社外取締役」の義務付けが盛り込まれており、
(A)監査役設置会社のうち大会社に1人以上の社外取締役を義務付ける。
(B)有価証券報告書を提出している会社に1人以上の社外取締役を義務付ける。
(C)現行法のまま見直さない。
の3案が示された。
もともと法制審ではA、Bの2案だったが、経団連が猛反対したため、関係者の間では、「法務省がC案をあとから付け加えた」といわれている。
経済同友会(長谷川閑史代表幹事・武田薬品工業社長)も、義務付けに反対してC案を支持する立場だが、「上場会社には社外取締役は必要で、その選任には法律による義務化ではなく、証券取引所による上場規定などで対応すべきだ」と主張している。経団連ほど頑迷ではない模様だ。
これに対して、日本弁護士連合会(宇都宮健児会長)、日本監査役協会(太田順司会長・新日本製鐵常任監査役)、日本公認会計士協会(山崎彰三会長・監査法人トーマツパートナー)、東京証券取引所(斉藤惇社長)、日本取締役協会(宮内義彦会長・オリックス会長)はB案に賛成している。コーポーレート・ガバナンス(企業統治)の強化を求める立場側は一斉に義務付けに賛成しており、対応は大きく分かれた。
法制審は、上場会社に限定して社外取締役1人の義務付けで決着を図りたいようだ。すでに上場会社の半数程度が社外取締役を導入しており、義務付けられても問題は少ないと考えているからだ。
しかし、社外取締役の適格者がなかなか見つからないという厳しい現実もある。巨額な損失隠蔽事件から元社長らの逮捕に発展したオリンパスでは、3人の社外取締役が選任されていたが、隠蔽工作をまったくチェックできなかった。社外取締役に選ばれる人の多くは、社長のお友達、メインバンクの役員・元役員や高級官僚の天下り組。複数の会社を掛け持ちしているケースも多い。
社外取締役の選任義務化に猛反対する経団連と全銀協は、外部から経営について批判されたくないという本音がミエミエだ。重厚長大型企業や金融機関の「内向きの経営姿勢」が、今回はからずも露呈した格好となった。
民主党でこの問題について検討する、財務金融部門会議の「資本市場・企業統治改革ワーキングチーム(WT)」がまとめる提言は、「有価証券報告書の提出義務のある会社には、社外取締役の選任を法律で義務付ける」という内容になりそうだ。同党は、13年通常国会に、会社法の改正案を提出する方向である。
(文=編集部)