不可解な内閣官房参与人事があった。10月1日付で同職に抜擢された木山繁氏の人事だ。木山氏は直前まで国際協力機構(JICA)の理事だったので、抜擢の表向きの理由は、インフラ輸出などでの知見を生かすということだが、「JICAでの仕事ぶりの評価は芳しくなく、部下に無理難題を押し付けて困らせることで有名だった」(外務省筋)との声もある。
内閣官房参与といえば、首相のブレーンで、小泉純一郎元首相の秘書官だった飯島勲氏ら錚々たる顔ぶれが並ぶなか、こうしたまったく無名でしかも評判の悪い木山氏が抜擢されたことを、驚いてみているキャリア官僚も多い。
この人事には「裏」がある。木山氏を内閣官房参与に押し込んだのは、国際協力銀行(JBIC)代表取締役副総裁の前田匡史氏といわれている。前田氏と木山氏はこれまでもインフラ輸出などで協力してきた。前田氏が木山氏を内閣官房参与に売り込んだのは、責任を押し付けるための要員とみられている。ある官僚は「地位や名誉に弱い木山氏をうまく使う腹積もりだろう」と言う。
この前田氏は「官邸の打ち出の小槌」の異名を持つ。首相肝いりのプロジェクトなどに即座に融資することで重宝がられている。最近でも、日露関係を重視する安倍官邸の意向を受けて、ロシア最大の銀行といわれるズベルバンクに対してJBICが40億円の融資を行うことを決めたが、それを主導したのも前田氏だ。世耕弘成経済産業相とも親しいとされ、そのルートを使って木山氏を売り込んだようだ。
このほかにも、現政権が力を入れる原子力発電所や鉄道などのインフラ輸出のプロジェクトに前田氏がかかわっているケースが多いが、かかわったプロジェクトはことごとく失敗している。
たとえば、インドネシアの高速鉄道の受注競争で中国に負けた際に、日本の事実上の「司令塔」は前田氏だったとされる。経産省関係者が言う。
「前田氏が連れてきたインドネシア政府に食い込んでいるという触れ込みのコンサルタントが食わせ物で、金だけ取ってなんの力もない人物で役に立たなかった。その結果、中国との情報戦で負けた。負けるとわかったら前田氏はすぐに逃げて、その責任を現地大使館に押し付けた」
各省庁は不快感
前田氏は「風見鶏」とも評されている。民主党政権時代は仙石由人官房長官に食い込み、自らが内閣官房参与に就任して、インドや東南アジアへの日本からの経済支援を、政府の背後から操っていたといわれる。
「今でも仙石氏の面倒を見ているほか、民主党に情報を流して野党にもいい顔をしている」(政治部記者)
このため、政府系金融機関の重鎮でありながら、「政商気取り」といった批判も霞が関の一部から出ている。
今年、JBICのナンバー2である副総裁に専務から昇格した前田氏は、自らの人事も動かした。JBICは財務省の管轄で、この6月までは渡辺博史元財務官が総裁だった。渡辺氏が退任後、代わりに元国税庁長官の林信光氏が天下って総裁に就くとみられていたが、そのポストは専務で、前田氏の下に置かれた。前田氏はJBICの前身である日本輸出入銀行のプロパー職員出身。通常ならば管轄官庁から天下ってきた高級キャリア官僚の上のポストに前田氏が就けるはずがない。そして、トップの総裁には元住友銀行常務の近藤章氏が起用された。
「この近藤氏、住銀時代は国際畑なので適任のように思われているが、かつてある問題を起こして失脚した経歴の持ち主。JBICで権勢を振るうことはなく、形だけの『お飾り総裁』にすぎず、事実上の総裁は前田氏で、官邸へのパイプを使ってこの人事を画策した」(大手銀行関係者)
こうした前田氏の権勢ぶりに財務省は不快感を示しているそうだ。さらには外務省や経産省、国土交通省といったインフラ輸出に絡む関係官庁を差し置いて出しゃばってくる前田氏は、霞が関の反発も買い始めている。今後、前田氏は得意の処世術で霞が関や永田町の世界を泳ぎ切れるかが見ものだ。
(文=編集部)