出光と昭和シェル合併、公取委承認でも創業家は「合併はあくまで反対」「脱法あれば告発」
しかし、合併を前提としなければ亀岡社長は出光に株を買ってもらいたくないという立場なので、合併をやめたという声明は出しにくい。そこで事実上合併を断念したけれど、ロイヤル・ダッチ・シェル、そして昭和シェルとの関係があるから一応延期というかたちをとったと考えたわけです。ただ、できるだけ早く株式取得契約についての処理をしたい。それが亀岡社長への配慮であり、また、月岡社長にとっては、無意味な株式取得を1700億円も借入れをしてやってしまうという、経営責任を問われる事態を回避したいという願いが込められていると推察しています。
亀岡社長と月岡社長は今、社内ではかなり孤立をしていると聞いています。出光側は月岡社長・関大輔副社長、丹生谷晋取締役の3人が、合併を仕切っている。それに対する社外取締役を含めた風当たりが強くなっているという情報もあります。
合併無期延期の真相
浜田 ロイヤル・ダッチ・シェルの株主総会が来年1月、昭和シェルは3月に開催されます。1月と3月の総会の間、おそらく2月頃になるのではないかと思いますが、昭和シェルの亀岡社長が筆頭株主から退任を求められるのではないか、という情報が随分前から出回っています。ただ、クビにならないためには、亀岡社長は合併を進めていかなければならない。
亀岡社長の最大のミッションは、大株主であるロイヤル・ダッチ・シェルが保有する昭和シェル石油の株の売却。亀岡社長が大株主から評価されているのは、社長に就任後、出光への株の売却話を合意にまでもっていき、しかも当時は600億円ぐらいの含み損があったにもかかわらず、一株1350円で出光に買い取ってもらえるという話を取り付けてきたからです。亀岡社長は株を高く出光に売却し、かつ、2年前に社内の反対で潰れた吸収合併の話を対等合併にまで持ち込んできたわけですから、それは大成功でしょう。
ところが10月の会見以降、合併ができないという話になってしまった。買収というかたちでは昭和シェルの特約店や製油所は納得しない。一方で出光は売買契約がある以上、株を買わざるを得ない。昭和シェルは出光に株を持たれざるを得ないが、合併はできないという状況に追い込まれてしまったのです。それで月岡社長、亀岡社長の2人がお互いを察して呼吸を合わせて、ああいった記者会見になったのかなと推測します。
――公取委がロイヤル・ダッチ・シェルとの昭和シェル株取得を承認したことは、今後の展開にどのような影響があるのでしょうか。
浜田 大株主として合併に反対する考えは変わりません。ただ、合併もしないのに昭和シェル株を、しかも含み損を抱えているのに取得してしまったのは、経営責任を問われる問題だと考えています。
――公取委の合併審査は、なぜこんなに長引いたのでしょうか。
浜田 出光、昭和シェルにはJXホールディングス(HD)も絡んだLPGの競合子会社があるらしく、それをどう整理するのかという問題が、議論が長引いているひとつの理由だといわれている。だから、原油やガソリンのシェアだけではなくて、LPGをめぐって共同出資の会社がいくつかできています。それをどう整理するかで公取委は審査中だったのだと思います。これは、こうしなさいという条件をつける場合がある。その手法も含めて、なかなか結論が出なかったのではないでしょうか。
銀行サイドの思惑
――12月7日付日経新聞朝刊の一面トップに『出光・昭シェルが相互出資、2割前後 合併へ先行』という記事が出ました。見方によっては、創業者一族への宣戦布告のようにも読めます。
浜田 あれは日経新聞が最初に出して、それをNHKも後追いし、まだ早いと思いながら放送したようですが、社内ではまだ決まっていないと思っています。あの話自体は、膠着状態を打開するために昭和シェル側のメインバンクであるみずほフィナンシャルグループも一緒に議論されていた内容のようです。しかし、そんなことをすれば我々だってきちんと対応します。
――では、創業家側は出光サイドからの宣戦布告ではないと思っているのでしょうか。
浜田 我々は、今さら宣戦布告はないと思ってますよ。出光経営陣も苦しんでいると思う。ロイヤル・ダッチ・シェルから取得する昭和シェルの株式総額は1700億円といわれていますが、これは4~5兆円の売上高を誇る企業にとっては大した金額ではないかもしれない。また、株価が一時的に上がっているので、含み損の金額も500億円くらいに縮まっていますが、それでもそんな株を買って、合併もしないということになってしまう。もちろん昭和シェルは困るでしょう。
しかし、困るのは昭和シェルだけでなく、一般の株主も「何をやっているのだ」ということでしょう。株主代表訴訟が起きてもおかしくないことです。だから、この事態をどう打破するのか、懸命に議論しているのだと思います。
――25%以上の株式を保有された企業は、相手先の企業の株式を保有しても議決権が無効になるからということで、出光興産はロイヤル・ダッチ・シェルの保有する昭和シェル株33.24%のうちの25%に取得数をとどめ、8%程度を銀行に信託するということのようですが、それについてはどう思いますか。
浜田 議決権行使を無効になるため信託銀行に委託する形式にはなっていますが、実際には金融商品取引法の公開買付け義務を回避しようという意図のようです。
――金商法の公開買付け義務とはどのようなことですか。
浜田 上場企業の株を3分の1以上買収する場合には、金融商品取引法の規制によりTOBを掛けなければならないのですが、その買収主体には、買収を行っている企業の株式を20%以上保有している株主グループ(形式的特別関係者)も含まれるのです。創業家の出光昭介氏をはじめ、正和氏、正道氏、日章興産は3388万株、21.1%を所有していますから、この形式的特別関係者に当たります。そして昭介氏は昭和シェルの株式を1%以上取得しているので、現段階ではロイヤル・ダッチ・シェルの保有する昭和シェルの株式と合わせると、3分の1超の株式となりTOBを掛けなければならないのです。
――そこで出光が取得する昭和シェル株の8%を銀行に信託することで、TOBを回避しようとしていると指摘されているわけですね。
浜田 出光側としては「信託を使えば問題はない」という論理なのでしょうが、一旦ロイヤル・ダッチ・シェルから昭和シェル株を買うタイミングで3分の1超となれば、我々は証券取引等監視委員会への通告をせざるを得なくなります。また、金融商品取引法には、実質的特別関係者という規定もあり、昭シェル株を15%所有しているサウジアラムコは、それに該当すると考えていますので、その観点からも同じ対応をしなければならないことになります。
「出光経営陣は、リスク感覚がない」
――昭和シェルが出光株の20%を持つことについてはどうですか。すでに昭和シェル株を取得した今、出光はそうしたことをわざわざするでしょうか。
浜田 このスキームで信じられないのは、20%も株式を持ち合うには、昭和シェルが出光株を20%取得しないといけない。取得金額は1000億円ぐらいになるのではないでしょうか。それは借りたお金でやるのでしょうから、金利もかかります。あえてそれを実行するのは、なかなか現実問題として難しいと思います。
――昭和シェルが出光株を20%取得するためには、どうすればよいのでしょうか。第三者割当増資の場合には、第三者を出すことによって、現オーナーの持っている33%超の株が希釈されて、3分の1未満になるので、株主権が制限されるのではないですか。
浜田 一つはTOB、もう一つは第三者割当です。出光株は浮動株が少ないので、TOBは難しいでしょう。従って、第三者割当、つまり昭和シェルが買うという前提で20%の新株を発行する。だけどそれは、我々からすれば会社法の不公正発行に当たります。これは差し止め申立ての対象になるので、もしそれが実行されれば、裁判所に差し止めを求めます。
――仮に出光の株式を昭和シェルが20%所有した場合、それが今後の乗っ取りなどの種玉になる心配はないのですか。
浜田 突然その株式の持ち合いを口実にして新株発行を、という意味合いだろうと考えていますので、今申し上げたように発行を差し止める措置を取らざるを得ません。従って、買い取らなければ債務不履行になるという話もあるようですが、もしそれが本当だとしても、1700億円の借り入れを起こしてまで、昭和シェル株を買う必要はないと反対してきたわけです。しかし、買い取った場合、その後はどう処理するのか。これが今、彼らの最大の悩みだと思っています。無目的に負債を増やしてまで株式を持つということは、前に申し上げた通り、一般の株主からも経営責任を問われる問題だと思いますから。
(構成=松崎隆司/経済ジャーナリスト)