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銀行出身社長が舵取る東芝、財務改善進まず…資産売却と人材流出で弱る研究開発力

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 現在、世界各国の企業にとって、最先端の技術を生み出し需要を創出することの重要性が日々高まっている。米中対立などで各企業の技術開発競争が熾烈化しており、これからの市場で生き残るためには新しい技術を作り出すことの重要性が高まっているからだ。

 米国はIT先端分野などで中国の台頭を抑えようと必死だ。その中国は補助金政策の強化などによってIT、医療、宇宙開発などの研究・開発体制を強化し、米国の圧力に対抗して新技術の開発に多くのエネルギーを注いでいる。そうした状況下、日本企業にとって自力で最先端の技術を生み出すことは生き残りのための必須の条件になっている。

 かつて日本を代表する技術力の企業であった東芝は、足元で赤字に苦しんでいる。世界経済全体を見渡すと、IT関連などの分野には収益獲得のチャンスはあるはずなのだが、東芝はそれをうまく生かすことができていないようだ。今後、同社がどのような新技術を生み出そうとするか、経営陣が明確なビジョンと技術への理解を持つことの重要性は増している。

 先行きの展開を考えると、新型コロナウイルスの感染や米中対立の先鋭化によって、世界経済の変化のスピードはさらに加速化するだろう。東芝が収益力を確立するためには、組織全体が進むべき方向を明確化することが欠かせない。資産売却によって組織に不安心理が広がったことを考えると、経営陣は迅速に経営体制を強化して新しい東芝の進むべき道を示すことが必要になる。

重要性高まる最先端分野の技術力

 現在の世界経済は日々、急速かつ、大きく変化している。そのため、日本企業は新しい発想を技術に反映し、人々が欲しいと思う製品を生み出さなければ生き残ることが難しくなっている。

 米中対立の先鋭化が各国企業の技術開発の重要性を高めている。米トランプ政権は、大統領選挙に向けた支持獲得のために対中強硬姿勢を重視している。8月13日には、ファーウェイをはじめ中国のIT先端企業5社の製品などを扱う企業と米国政府との取引が禁止された。それに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済を低迷させている。その一方で、世界経済全体でデジタル化が急速に進んでいる。

 そうした状況下、東芝のような事業規模の大きな企業が成長を目指すには、自力で(米中などの要素に依存することなく)、新しい技術を開発するしかない。ライドシェアなどを手掛けてきた米ウーバー・テクノロジーがフードデリバリー事業で成長しているように、すでにあるプラットフォームの利用方法を広げるというような発想の転換も重要だ。ただし、そうした取り組みはすぐに模倣され、持続的に競争上の優位性を維持することは難しい。そう考えると、先端分野での技術開発を進めることが、東芝が国際競争に対応して収益を得るためには欠かせない。それは東芝以外の日本企業にも当てはまる。

 冷静に考えると、現在の経済環境が厳しいことは確かだが、東芝が収益を獲得するチャンスはあるはずだ。インフラ分野を重視する同社にとって、中国が高速鉄道の延伸など公共事業を積み増し、景気対策を強化している状況は収益獲得の機会になっておかしくはない。

 しかし、2020年4~6月期、東芝は113億円の最終赤字に陥った。国内外の主要投資家の中には、「もう少し収益力が改善すると期待した」との声も聞かれる。見方を変えれば、東芝は成長を支える事業を確立できていないといえる。

これまで技術開発で成長してきた東芝

 東芝は技術を生み出し、成長してきた。記憶媒体装置として世界のIT化に大きな影響を与えたNAND型フラッシュメモリーはそのよい例だ。新しい技術の創出は、人々の生き方を変える力を持つ。

 現在、東芝はインフラサービス企業としての成長を目指している。客観的に考えると、その分野での収益獲得チャンスは増えている。特に、新興国地域では安心して使える水の重要性が高まっている。アジア、アフリカ、南米地域などで新型コロナウイルスの感染は深刻だ。その一つの原因として、安全な水道網が未整備であるため、手洗いが徹底できないという問題がある。

 そう考えると、浄水関連事業は東芝にとって重要な成長分野と位置付けることができる。経営陣は、そうしたシンプルな考えに立ち返るべきだ。その上で、経営陣は世界の浄水需要を取り込むために必要な発想や技術が何か、見定めなければならない。

 仮に、そうした技術やシステムを生み出すことができれば、東芝が新興国各国の浄水需要を獲得する可能性は一段と高まる。新興国の人々にとって、安全な水にアクセスすることは命を守ることにほかならない。それに加えて、浄水施設の整備は工業用水の管理、さらには工場など生産設備のメンテナンスなどの収益機会の獲得に発展する可能性がある。

 しかし、同社の経営方針説明の資料などを見ると、以上のような具体的かつ明確な事業戦略が見えてこない。インフラ関連の事業を重視するという経営方針は繰り返し提示されてはいるが、分野は、ビルメンテナンス、発電関連など多岐にわたる。ある株式アナリストは、「経営陣が何をしたいか、明確なメッセージが伝わってこない」と話していた。

 対照的に、東芝と並ぶ総合電機企業の日立製作所の事業戦略は明快だ。同社の経営トップはIT先端分野の技術の重要性を理解し、人工知能(AI)を用いたプラットフォームの構築に取り組んだ。さらには、海外の送電網事業を取得してAIプラットフォームとの融合を進めつつ、収益源の分散にも取り組んでいる。それによって、日立は既存事業の維持を重視してきた経営風土を改革しようとしている。

今後、必要な迅速な経営体制の強化

 動きの速い現在の状況を考えると、東芝は迅速に経営の体制を強化しなければならない。経営陣は、世界経済全体の変化に対応し、自社の強みが発揮できる分野を見極めなければならない。その上で同社は需要取り込みに必要な新しい技術を生み出す必要がある。そのために、経営トップが先端分野の技術に関する明確な理解を持つことは欠かせない。

 現状、東芝は金融機関の出身者を経営トップに招き、収益と財務内容の立て直しに注力している。それはそれなりに重要だろう。ただし、資金を運用して利鞘を稼ぐという金融ビジネスと、技術開発によって人々の新しい生き方を生み出すという製造業は異なる。それに加えて、近年、東芝は業績と財務内容を立て直すために資産を売却した。その結果、技術開発を支えた人材が社外に流出し、同社の研究開発体制は不安定化しているとみられる。

 限られた経営資源を成長分野に再配分し、効率的かつ確実に利得を手に入れるためには、経営陣の明確な理解に基づく事業戦略の立案と実行が不可欠だ。経営体制の強化を通したリーダーシップの発揮は収益基盤が不安定な中で組織の士気を高めるためにも欠かせない。

 中長期的に考えると、アジア地域を中心に新興国のインフラ関連の需要は高まる。浄水関連だけでなく、高速鉄道や道路網の整備、さらには自動車のCASE化(Connected(コネクティッド)、Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化))も進むだろう。10年程度、あるいはそれ以上の時間軸で考えると、自動車は移動するオフィスなどとして都市空間に組み込まれていく可能性もある。

 東芝が変化に対応しつつ持続的な成長を目指すために、新しい技術開発の重要性は一段と高まる。現在の収益力を考えると、経営陣にとっての課題は、取り組むべき分野と技術を明確にし、その成果を実現すること(成長事業の確立)だ。その上で、東芝は獲得した経営資源を成長期待のより高い分野に再配分し、さらなる成長を実現しなければならない。そのための体制整備は現経営陣に課された課題の一つだ。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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