中国ファーウェイの息の根を止める米国…禁輸強化で半導体供給を遮断、クラウドも規制へ
中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対する新たな規制を、アメリカが発表した。また、アメリカは既存の規制に関しても強化しており、ファーウェイの存続に危険信号が灯り始めたと言える。
今年5月、アメリカはファーウェイが設計に関与し、製造にアメリカの技術が使用される半導体の輸出禁止を発表したが、その禁輸の対象をアメリカの技術が関与するすべての半導体に拡大した。
これにより、ファーウェイは半導体生産に関する新たな発注ができなくなる。内製化したいのはやまやまだが、中芯国際集成電路製造(SMIC)に対するオランダ・ASMLの半導体製造装置の輸出が規制されており、2~3世代前の技術しか使うことができない。そのため、小型化が必要なSoC(複合CPU)をつくれず、スマートフォン事業の展開ができなくなる。
ファーウェイは子会社であるハイシリコンのSoC・Kirinを製造できなくなったため、クアルコムなどのSoCを利用してスマホをつくろうとしていた。しかし、今後はクアルコムのSoCをファーウェイに販売した企業や台湾積体電路製造(TSMC)なども制裁対象になってしまうわけだ。また、ファーウェイがサーバー用にインテルなど他社のCPUやチップを購入した場合も同様に、川上から川下まですべてが制裁対象になってしまう。
この状況では、汎用品を含むすべての半導体製品をファーウェイに売ることはできない。唯一例外があるとすれば、アメリカ原産の技術をまったく使っていない製品や半導体ということになるが、それをつくるのは不可能と言っていいだろう。
また、中国企業などでファーウェイに半導体やサーバーを不正に販売する企業も出てくると思われるが、関与した企業はセカンダリーボイコット(二次的制裁)の対象になる。さらに、不正な製品や技術を利用してつくられたモノやサービスを販売、輸出できるのかという問題も出てくるわけだ。
また、アメリカは事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」にファーウェイの関連会社38社を追加した。さらに、8月13日が期限となっていた禁輸の例外措置も打ち切ることを発表しており、今後はファーウェイのスマホや携帯電話の保守にかかわる取引も禁止される。
ファーウェイのクラウドも規制対象に
その上、今回の規制ではクラウド関連子会社も対象になっている。これは、アメリカのクリーンクラウド戦略と並行するものだ。現在、ほとんどのサービスデータはクラウドサーバーに保存され、端末との常時アクセスによって運用されている。たとえば、スマホのゲームひとつをとっても、通信環境がないところでは使えないわけだ。
そのクラウドが規制されることで、ファーウェイはクラウドの増強ができず、ファーウェイが開発したOS「ハーモニー」およびグーグルのアプリストアの代替として用意したファーウェイモバイルサービスも拡張が難しくなった。また、保守にかかわる取引も禁止されることで、既存端末に関してもアフターサービスができない状況になるかと思われる。この状況での販売継続は難しいと言わざるを得ないだろう。
今回の規制は、設計ソフトや半導体エッチング装置などアメリカ原産の技術を利用したすべての半導体に適用されており、エンドユーザー(最終利用者)だけでなく、その過程(購入者、中間受取人、最終受取人)にまで踏み込んでいる点が特徴だ。つまり、半導体にかかわる企業は、自社の製品がどのように利用され、最終的にどこに行くのかを確認する必要があるわけだ。
さらに、ファーウェイのクラウドサーバーや研究開発機関にまで踏み込んだことも特徴であり、ファーウェイ関連企業を完全に排除するという姿勢の表れだろう。
そして、対象はあくまでファーウェイだが、それ以外の中国の通信企業にも同様の処置ができることを意味する。ファーウェイ以外の中国メーカーは、アメリカのクアルコムなどのSoCやモデムチップを利用して、スマホの生産を行っている。そのため、アメリカ政府が中国企業に対する輸出管理を強化するだけで、生産を止めることができるわけだ。たとえば、5Gのモデムチップを輸出管理の対象にするだけで、中国では5Gスマホの生産が不可能になる。
今回の制裁はファーウェイを見せしめにした側面が強く、中国の覇権を許さないというアメリカの強い意志表示に他ならない。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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