TikTok、スマホの個人情報を不正取得でスパイアプリの可能性も…中国、米国を侮辱する報復
中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画アプリ「TikTok」が、米中対立の新たな火種となっている。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、バイトダンスとコミュニケーションアプリ「WeChat」を運営する騰訊控股(テンセント)との取引を禁止する大統領令に署名した。テンセントに関しては、子会社などWeChatに関連する取引をすべて禁止するが、他の取引については対象ではないという。今後の焦点はどこまでが「WeChat関連」とみなされるかであり、「WeChat Pay」など決済サービスにまで波及するかどうかが注目される。
また、かねてから安全保障上のリスクが懸念されていたTikTokは、グーグルの基本ソフト「Android」を搭載したスマートフォンの個体識別番号を不正に抜き取り、ユーザーを追跡していた問題が報道されている。これは巧妙に隠蔽される形で行われていたようだが、アプリによるユーザー追跡を制限するグーグルの規約に違反することになる重大な問題である。
TikTokは過去にも個人情報の収集が問題になったが、すでに解消されたとしていただけに、悪質性が問題視される可能性が高い。また、その本当の目的も、現時点では不明である。さらに、iPhoneにおいても、ユーザーのキー入力を記録し、その情報サーバーに送信する「キーロガー」と呼ばれる行為を行っていた可能性が指摘されており、「中国のスパイソフトではないか」という疑惑を一層深めるような問題が次々と露呈している。
トランプ大統領はTikTokの米事業売却を求めており、マイクロソフトが購入に向けた交渉をしているが、バイトダンスとの完全な切り離しが難しいという技術的な問題を抱えており、実際には難しいのではないかとみられている。また、今回の問題により、今後は世界各国で訴訟にさらされる可能性も高くなったわけで、リスク管理の面からも買収が難しくなり始めている。
中国側は、この問題を対米貿易協議に組み込むとしているが、アメリカはあくまで第1弾の進捗状況を確認してから先に進むという姿勢であり、中国が購入条件などを満たしていない場合は追加の制裁関税を課すなどとしている。そのため、貿易協議は中国の要求をのむための場ではないという立場を貫くだろう。
TikTokのスパイソフト疑惑が深まった上に、香港問題を抱える状況で中国側の要求をのめば、議会の反発を招くだけであり、トランプ政権は支持者から強い批判を受けることになる。11月に大統領選挙を控えている状況で、そうした動きにまったくメリットがないことは明らかだ。
米国が香港政府幹部に金融制裁、中国は報復
また、アメリカは林鄭月娥行政長官ら香港政府幹部11人に対して、香港人権・民主主義法と香港自治法に基づく金融制裁を科すことを発表した。アメリカ国内の資産凍結やアメリカ人との取引を禁止するという内容だ。
これに対して、中国はアメリカのマルコ・ルビオ上院議員、テッド・クルーズ上院議員ら11人を対象に制裁を科す報復措置を発表した。しかし、具体的な内容が明らかにされていないどころか、議員は行政の責任者ではなく立法府の一員であり、現実的に考えて有効ではないだろう。さらに言えば、こうした動きは米議会に対する侮辱ともいえるものだ。
また、香港政府は民主活動家の周庭氏や「蘋果日報(アップル・デイリー)」創業者の黎智英氏らを香港国家安全維持法で逮捕し、国際社会から強い批判を受けている人権や言論の弾圧を続ける姿勢を見せた。
さらに、中国は「ファイブ・アイズ」(アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの5カ国による機密情報共有の枠組み)の警告にもかかわらず、香港立法会選挙を1年以上延期することを決定した。これにより、民主派勢力の弱体化が進むものと思われる。
その一方で、拘束されていた周氏と黎氏は保釈されたが、容疑が晴れたわけではなく、いつ再拘束されるかもわからない。ある意味で“人質”に取られている状態といえる。特に、周氏はすでに別件で有罪判決を受けており、12月に量刑が宣告される身だ。好むと好まざるとにかかわらず、今後は政治的な交渉カードとして使われることになるのは間違いない。
そして、アメリカは香港の優遇措置廃止に向けて、実務面でも動き出している。45日間の猶予期間を経て、香港で製造された製品に対して原産地を中国と表示することを義務付け、中国本土と同率の関税が適用される。米中対立は、さらに混沌の様相を呈してきた。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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