コンビニ、「本部と加盟店の実態調査」の結果が衝撃的…「優越的地位の濫用」公取委も苦言
9月2日、公正取引委員会より「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」の結果が公表された。24時間営業など、加盟店のコンビニ本部への不満が大きく注目されている社会情勢を受け、公正取引委員会が本格的に動き出したということである。対象は大手コンビニチェーンのすべての加盟店で、5万7524店にも及ぶ。
筆者は長きにわたり、「コンビニ本部と加盟店の関係」に興味を持ってきた。チェーンストア理論を検討するうえで、示唆に富む事例と考えたからである。チェーンストア理論の要諦は、流通業における規模の経済の実現である。メーカーの場合、工場の大型化、最新設備の導入などにより、比較的容易に規模の経済が実現できる。
しかしながら、流通業においては商圏という構造的問題がある。いくら店舗を大きくしても、地理的制限により顧客の数は右肩上がりに増加しないということである。よって、店の大型化ではなく、多数の店舗を展開し、全体として規模の経済を実現する経営手法がチェーンストア・システムである。
この際、重要なポイントは「標準化」である。せっかく多店舗展開しても、各店舗が独自の商品構成、システム、サービス、店名、外観などであれば規模の経済は実現せず、同一の手法、つまり標準化された手法を採用しなければ効果は期待できない。さらにコンビニ問題はこうしたチェーンストア・システムに加え、フランチャイズ・システムも絡んでくる。
見切り販売の問題
歴史を振り返れば、コンビニにおける本部と加盟店の問題が顕在化したのは、“見切り販売妨害事件”であろう。加盟店における消費期限直前の商品の値下げ販売を、本部が妨害したということである。この件は2014年、最高裁で加盟店側の勝訴が確定している。もちろん、本部から加盟店が仕入れた商品の所有権は加盟店にあり、どのような価格で販売するかの権限は加盟店にある。
しかしながら、ビジネスの視点からは見切り販売の問題点も無視できない。たとえば、夕方のスーパーのように多くの商品の見切り販売が常態化すると、客は定価での購買を控え、値引きされるのを待つようになる。また、廃棄と比較して見切り販売の痛手は小さく、仕入れに甘えが生まれる。さらに、“見切り販売を行う店”というイメージは1店舗にとどまらず、見切り販売を行っていない他店を含め、チェーン全体のブランド低下といった問題も生じるであろう。
よって、本部が加盟店の見切り販売に消極的な姿勢を示すことに理解できる部分もある。しかしながら、こうした問題の解決を加盟店に一方的に押し付けた点は大いに反省するべきだろう。コンビニ会計という特殊なシステムにより、見切り販売と比較し、廃棄のほうが加盟店の本部への支払いは大きくなるという理不尽な仕組みのもと、本部が加盟店になんら協力しないという状況において、加盟店の理解が得られないのは当然のことである。
この点に関しては近年、本部も態度を軟化させ、さまざまな試験的取り組みが行われているようではあるが、賢明な組織であるならば、問題が顕在化する前に取り組むべきことだったはずだ。
24時間営業の問題
さらに近年、人手不足を背景にコンビニの24時間営業も大きな社会問題に発展している。確かに、いつでも営業しているコンビニは消費者に大きな安心感を与え、文字通り非常に便利な存在である。しかし、人手不足が深刻化する日本において、人件費は高騰し、さらに高額な時給に設定してもスタッフの確保ができず、加盟店オーナー自らが連続して勤務を行わざるを得ない事態が蔓延している。
こうした事態に対して、本部は「契約で24時間営業となっており、営業時間短縮は認めない」と、加盟店に対して冷淡な態度をとることが多いようだ。もちろん、24時間営業という標準化された仕組みのもと、店舗への商品の搬送などは設計されているため、営業時間の短縮を認めれば、さまざまな問題が生じるだろう。また、コンビニは当然24時間営業と思い込んでいる客には時短営業している個別の店舗のみならず、チェーン全体に対して負のイメージを与えてしまうかもしれない。よって、見切り販売同様、営業時間短縮に対する本部の抵抗に理解できる部分もある。
しかしながら、加盟店から本部に支払われるロイヤリティは、加盟店の利益ではなく売上に応じて支払われる仕組みになっている。よって、客数が減る深夜の時間帯に高額な時給のスタッフを確保することで、いかに加盟店が採算を悪化させても、本部はまったく痛みを受けることがない。
実態調査の結果
それでは、公正取引委員会が行った「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」結果の概要を確認しよう。
【経営状況】
「順調である」といった肯定的な回答が28.2%である一方、否定的な回答は44.7%。
【仕入れ数量の強制等】
「意に反して仕入れている商品の有無」に関して51.1%があると回答。その理由として、「契約を更新しない、解約すると言われた」などが多数。
【見切り販売の制限】
「直近3年間に見切り販売を制限された経験はない」と88.0%が回答。しかし、70.0%の加盟店は、システム上の問題などにより見切り販売を行っていない。
【年中無休・24時間営業】
「深夜帯は赤字」77.1%、「人材不足を感じる」93.5%、「引き続き24時間営業を続けたい」33.2%、「時短営業の交渉に本部が応じない」8.7%。この点に関して、「優越的地位の濫用に該当し得る」と公正取引委員会はコメントしている。
【ドミナント出店】
1次商圏内のコンビニ数:平均4.0店。67.2%のオーナーが「コンビニが多い」と回答。また、周辺に追加出店されたオーナーのうち、「本部からは何も提案されなかった」との回答が62.3%。この点に関して、「優越的地位の濫用に該当し得る」と公正取引委員会はコメントしている。
日本におけるコンビニ
もちろん、コンビニ本部には今回の実態調査の結果を踏まえ、業務の見直しが期待される。しかしながら、そもそも今回のような大々的な実態調査が公正取引員会によって実施されたこと自体が、企業にとっては恥ずべきことであると認識すべきだろう。つまり、小手先の業務の見直しにとどまらず、抜本的な改革が強く求められているということである。
重要なポイントは法律や契約に違反しているか否かではない。加盟店および社会から信頼されているか否かである。そのために、まず加盟店をどう捉え、どのような関係を構築するかについて徹底的に再検討してほしい。
見切り販売、24時間営業、ドミナント出店と、それぞれ事象は異なるものの、問題の本質は共通している。「困っている加盟店」と、「なんの痛みも感じず、なんら協力しない本部」という構図である。結果、加盟店から信頼を得られないのは当然の帰結である。
筆者が大学で流通論を担当していたころ、NHKの『プロジェクトX 挑戦者たち 日米逆転! コンビニを作った素人たち』を必ず学生に視聴させていた。直接的な目的はコンビニの仕組みを学生に理解してもらうことだが、それ以上に社会において人々が協力し合って物事を進めていく困難さ、素晴らしさを学んでほしかったからである。
アメリカ本社のセブン-イレブンから日本での営業権を獲得し、コンビニ事業に着手したものの、アメリカ側から渡されたマニュアルは日本では一切役立たず、本部は加盟店の協力を得ながら試行錯誤を繰り返し、日本におけるコンビニ・システムをつくり上げている。
こうしたコンビニ創成期における本部と加盟店の素晴らしい協業関係を、じっくりと見つめ直すことが強く求められているのではないか。コンビニ本部のスタッフ全員に是非、この『プロジェクトX』を観てもらいたい。
筆者は街から少し離れたところに居住しており、最寄りのコンビニまで歩いて20分以上かかる。大手チェーンに属さないこのコンビニは、夜10時に閉店する。しかも、本来営業しているはずの時間帯にもかかわらず、たまにしれっと休みの時がある。臨時休業を知らせる張り紙などは一切なく、ただ暗く、閉まっている。
初めのころは軽い怒りのようなものを覚えていたが、今となっては逆に「あ、今日は開いていてよかった」と、感謝の気持ちさえ芽生えつつある(思い通りにはならない猫好きの気持ちと似ているのかもしれない)。
周りの店がきっちりしている現代の日本において、こうした店は目立つが、もしすべての店や社会がこんな調子になると、どうなるのだろうか。それはそれで牧歌的で素敵な社会なのかもしれない。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
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