その後、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービル)が米国ミシガン州とオハイオ工場の設備増強に向けて10億ドル(約1175億円)を投資するとともに、2000人を追加雇用することを表明。米国での雇用拡大を求めるトランプ氏に批判される前に先手を打ったと見られる。
トランプ氏の批判の矛先が次に向けられたのが、トヨタだった。トランプ氏は、トヨタが建設しているメキシコ工場についてツイッターで「冗談じゃない。高い関税を払え」と批判した。トランプ氏がトヨタを批判したのは、豊田社長が1月5日、新春賀詞交歓会などで記者団の質問に対して「(メキシコでの)雇用と地域社会への責任がある」と述べ、メキシコ工場新設を撤回しない方針を示したとのニュースが伝わったためだ。
ただ、トランプ氏の批判を受けてトヨタの米国法人は「メキシコに工場を建設しても米国での雇用が減るわけではない」と表明、さらに北米国際オートショーで、トップ自らが米国経済への貢献をアピールした。
トヨタのこうした姿勢に、他の自動車メーカーは複雑だ。
「フォードやFCAは米国が基盤で、トランプ氏を支持するブルーカラーの多くの従業員が働いていることもあって新政権と事を構えたくなかったというのはわかるが、トヨタがツイッター攻撃に屈するのは、世界最大級の自動車メーカーとしていささか問題があるのではないか。業界の盟主として、メキシコ工場撤回の要求をはねのける毅然とした態度を示してほしかった」(日系自動車メーカー幹部)
同じくメキシコ工場を批判され、トランプ氏から「高い関税を課す」と脅されているゼネラルモーターズ(GM)のバーラCEOは「(メキシコの生産計画に)変更はない」と、批判を一蹴している。
「必要以上にビビッている」
トヨタがトランプ氏に屈服したのは、豊田社長が社長就任から間もないころ、米国でのリコール事件での対応をめぐって公聴会に呼ばれて強く批判されたことから、「米国に対して必要以上にビビッている」(業界筋)との声もある。
また、トヨタが打ち出した5年間で1兆円を超える投資には「カラクリがある」との見方も。トヨタは、クルマづくりの新しい手法「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を導入しており、今後、米国でもTNGAの考え方を採り入れた生産システムを導入する予定で、投資が膨らむ。さらにトヨタが今後、研究開発費用をもっとも重点的に投資する予定の自動運転やAI(人工知能)に関する研究開発の主軸は、米国に置いている。