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高橋篤史「経済禁忌録」

日本企業を脅かす村上ファンドOB、想定外の苦戦相次ぐ…リコーや第一生命も買い占め

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 じつは似たようなケースは15年にも起きている。投資先のセゾン情報システムズをめぐるものだ。同社も親会社のクレディ・セゾンともども上場しているという難点を抱えていた。クレディ・セゾンは09年に経営不振の上場子会社アトリウムを完全子会社化して事実上救済していた。そうした“実績”も踏まえると、セゾン情報システムズはまさにエフィッシモ好みの投資先といえた。

 それ以前から買い占めを進めていたエフィッシモは15年2月6日、さらに圧力をかけるべくTOB(株式公開買い付け)の実施を会社側に通告する。ところがその前日、セゾン情報システムズは大型開発案件の遅延に関わる引当金の計上で業績を大きく下方修正すると発表していた。エフィッシモはそれでもTOB計画を続行、約65億円を追加投資して持ち株比率を33.0%にまで引き上げた。
 
 すると1年後の16年3月、セゾン情報システムズは同じ開発案件でさらに約78億円の和解金を支払うことを発表した。大赤字が続いたことで14年3月末に165億円あったセゾン情報システムズの純資産は、わずか2年で3分の1以下の49億円にまで減ってしまった。

 一連の動きはエフィッシモからすると、狐につままれたような出来事だったかもしれない。というのも、問題の大型開発案件の発注者はセゾン情報システムズの親会社であるクレディセゾン及び同社の子会社だったからだ。確かに別個の法人間の取引なので開発失敗による和解金支払いには道理がある。が、クレディ・セゾングループ全体で見れば、それによる資金流出があったわけではない。突き詰めればグループ内での資金移動があっただけだ。エフィッシモにしてみたら、買い占め勢力に対抗して企業価値を意図的に低下させる焦土作戦と映ったことだろう。

神経戦は続く

 こうした苦戦ぶりの半面、エフィッシモのファンド規模がここ2年ほどで急激に膨張しているのも事実だ。前述した新立川航空機・立飛企業グループに対する買い占め劇など過去の大々的な成功で、投資家から資金が大量に流入しているのだろう。

 ファンド膨張に伴い案件あたりの金額は大きく跳ね上がっている。15年以降に買い占めが本格化した案件は大型株が目立つ。直近の投資額はヤマダ電機が521億円(持ち株比率15.3%)、川崎汽船が863億円(同38.4%)、リコーに到っては1048億円(同12.1%)にも上る。さらに詳細は不明だが9.0%を買い占めている第一生命ホールディングスでも投資額は1000億円を上回っているものとみられる。

 これら投資先に対しエフィッシモは今のところ表立った動きを見せてはいない。リコーや第一生命ホールディングスは日本を代表するような優良銘柄だけに、コーポレート・ガバナンス上の問題点をあげつらうこれまでの戦術が通用する相手とも思われない。エフィッシモがこうした大型案件でどのような作戦を描いているかはこの先明らかになってくるだろうが、不気味な沈黙が長く続いている。

 そうした大型投資と並行するかたちで今回、ユーシンに狙いを定めて得意の戦術を繰り出したわけだが、必勝パターンの持ち込むどころか、戦端を開いた途端に大きく躓いた格好だ。しかもセゾン情報システムズに続いての失態である。

 もっとも、エフィッシモは一度食らいついた相手をなかなか手放さない。煮え湯を飲まされたかたちのセゾン情報システムズだが、現在も持ち株比率33.0%を維持している。強面ファンドと日本企業との神経戦はまだまだ続くことになりそうだ。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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