しかし、FRBは原油価格の急落や、中国経済の減速懸念の影響もあり利上げを見送った。これを受け、FRBの対応が後手に回るリスクが高まったと考える投資家もいた。その後、FRBは国際金融情勢などを理由に、15年12月まで利上げを見送った。そして、16年11月の大統領選挙以降、トランプ政権下でのインフラ投資や減税への期待から株価は大きく上昇し、2月の12連騰につながった。
複数のFRB関係者の発言をまとめると、米国経済は徐々に強さを増し、慎重かつ緩やかな金融引き締めには耐えられるということだ。リーマンショック後、大半のFRB関係者が一様に目先の金融引き締めの必要性に言及したのは初めてといえるだろう。FRB内部には、バブルの膨張を抑え、その崩壊による実体経済悪化という不確実性を低減させたいとの考えがあるはずだ。
金融緩和の余地を確保したいFRB
同時に、FRB関係者が目先の利上げに言及している背景には、先々の金融緩和の余地を確保しておきたいとの考えもあるだろう。一般的に、消費や生産活動などが減速すると、経済成長率も低下し始める。エコノミストや金融市場の参加者らは、こうした動きを“景気が悪化する”と評する。そうした状況になると、先々の景気の悪化による企業収益や所得の減少を見越して、銀行は信用リスクの高まりを懸念する。信用力が低い企業や個人の借り入れ金利コストが上昇し、設備投資、消費にはマイナスの影響が及ぶ。そこで中央銀行は利下げを行って金融を緩和し、経済活動を支えようとする。
金融を緩和するためには、政策金利の水準がゼロ以上でなければならない。できることなら、複数回にわたり0.25ポイントの利上げを実施できたほうが、緩和の効果は高まるはずだ。今、米国の政策金利(FFレート、日本でいう無担保コールレートの翌日物の金利)は0.5~0.75%の水準に収まるようコントロールされているが、歴史的にこの水準は低い。
世界経済を俯瞰すると、各国の経済が、米国の株価上昇のように、右肩上がりで推移するとは考えづらい。足許では世界経済への楽観論も増えてはいるが、あくまでも期待でしかない。むしろ、実体経済は脆弱と考えられる。中国では不動産バブルの動向が気がかりだ。政府は改革を促進し、経済の軟着陸(ソフトランディング)を目指している。経済成長率の低下が避けられないと考えられるなか、状況次第では本土市場から資金が流出し、人民元が下落するなど金融市場が動揺する展開もありうる。