欧州では金融機関の不良債権処理が終わっていない。3月5日には、ドイツ最大手ドイツ銀行が約80億ユーロ(約9,700億円)の増資、一部事業の株式公開などを発表した。これは従来から不可避とみられてきた取り組みだが、米国を中心に株価が上昇したからこそ、こうした取り組みを進めることが可能になったといえる。
年内、複数回の利上げが可能かは決め打ちできない
今、世界経済の改善期待は、あくまでも米国の経済政策への期待によって支えられている。そうした期待が実体経済そのものの弱さを隠していると考えることができる。3月3日、イエレン議長が目先の利上げの可能性に言及したことを受けて、多くのエコノミストは従来2回としてきた年内の利上げ予想を3回、ないしは4回に修正し始めた。これまで2回の利上げも無理と考える専門家は多かった。それにもかかわらず急速に今後の金融政策に関する見解の修正が進んでいることは、多くのエコノミストが明確に金融政策の方向性を見通せていないことを示している。
興味深いのは、3日のイエレン議長の講演の後、米国の長期金利は低下し、ドルも売られたことだ。この動きに関して、材料の出尽くしから米金利が低下し、ドルも売られたとの見方がある。確かに、週末を控え、多くの投資家が米金利上昇、ドル高に備えたポジション(持ち高)の調整を進めたのは確かだろう。それに加えて、3月は既定路線としても、それ以降の連続的な利上げは容易ではないと一部の投資家が考え始めた可能性もある。米国の長期金利が2.3~2.5%程度のレンジで推移する環境が続いてきただけに、押し目を狙った投資家もいたはずだ。
このように考えると、エコノミスト予想などの“目に見える”利上げ予想は高まっているものの、金融市場では米国の金融政策がどうなるか、さまざまな思惑が交錯している。その点で、四半期ごとの利上げか可能かは決め打ちできない。雇用統計などの主要指標、FRB関係者などの発言をもとに各会合での利上げの可否を見極めることが重要だ。
5月以降のFOMCに関する投資家の利上げ予想が高まり始めれば、米金利が大きく上昇し株式などのリスク資産には調整圧力がかかりやすい。金利上昇による米国の消費や設備投資への圧迫懸念、ドル高による企業収益の落ち込みなど、実体経済への不安が高まる展開もあり得る。そうした状況を防ぐには、米国の景気回復が続き、トランプ政権がインフラ投資などを早めに実行できることが不可欠だ。現時点でそうした展開が実現するかは判然としない。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)