火災による影響が大きかったのはロハコ事業だ。法人向け通販に占める埼玉の物流倉庫の貢献度は9%にとどまるが、ロハコは62%に達する。東日本地域の配送の拠点であり、ロハコの物流の完全復旧が遅れると、顧客がほかのネット通販に流れることになる。
個人向けの食品や日用品などを販売するロハコ事業は12年に始まり、急成長を遂げた。16年6~11月期の売上高は前年同期比137%増の207億円を上げた。17年5月期(通期)のロハコの売上高は、前期比46%増の480億円を見込んでいた。だが、セグメント営業利益は16年6~11月期で15億円の赤字。水やコメなど、単価がそれほど高くないのに配送費がかかる商品が主力だ。創業以来赤字が続いており、4年間で累計100億円超の赤字だ。今回の火災で、ロハコの黒字転換の可能性はさらに遠のいた。
自慢の最新設備
法人向け通販最大手のアスクルは、もともとは事務機メーカー、プラスの文具通販部門が独立してできた会社だ。12年5月、ヤフー・ジャパンに第三者割当増資を実施し、ヤフーの傘下に入った。現在、ヤフーが議決権比率で44.6%を持つ。国際会計基準(IFRS)上、ヤフーの連結対象の子会社となった。
アスクルは法人向けカタログ通販の会社で、ネット通販に乗り遅れた。一方、ヤフーのネット通販事業は、アマゾンジャパンや楽天に大差をつけられていた。ネット通販事業を強化するため、アスクルとヤフーは12年10月、共同で個人向け通販サイトのロハコを立ち上げた。ヤフーは集客や決済システムなどを担い、アスクルがロハコを運営してきた。
アスクルは13年7月、埼玉県三芳町に東日本地域をエリアとする大型物流センター、ALP首都圏を新設した。敷地面積5万5000平方メートル、延べ床面積7万2000平方メートルの地上3階建て。総投資額は202億円(土地47億円、建物113億円、設備投資40億円、備品等2億円)。オリックスが開発した倉庫を購入した。
アスクルの発表資料によると、「倉庫内の照明はLEDを採用、太陽光発電設備を設置した先進的な環境配慮型の物流センター。日本初の自動梱包機を導入、梱包の生産性をこれまでの10倍に高めた。さらに、段ボール内の緩衝材の大幅削減とガムテープ不要の簡単開封パッケージなど顧客に優しいエコ配送を実現」と、いいことずくめだ。
岩田社長は「最新の物流工場」と表現した。ALPは日用品EC(電子商取引)に特化した戦略拠点だったわけだ。
だが、自慢の物流センターで大火災事故が起きた。経営効率を追求するあまり、安全性が置き去りにされた結果の人災という側面がないとはいえない。コンベアは火災が起きればたたまれて防火シャッターが完全に下りることになっていたが、実際にはコンベアに引っ掛かって防火シャッターが機能しなかった箇所があるという。
ライバルのアマゾンジャパンに対抗するため、倉庫を集約化し、配達の効率を進めてきたことが裏目に出た、との指摘もある。だが、これはアスクルだけの問題ではないだろう。
(文=編集部)
【続報】
アスクルは4月5日、物流拠点の火災のため延期していた2016年6月~17年2月期決算を発表した。火災関連で101億円の特別損失を計上した結果、連結最終損益は29億円の赤字になった。17年5月期(通期)の売り上げ見通しは、3480億円から3350億円に下方修正した。減少分(130億円)のうち100億円が個人向けネット通販、ロハコの落ち込みだ。純利益は4.6%増の55億円を見込んでいたが、16年6月~17年2月期が赤字となっており、「最終損益は未定」(岩田彰一郎社長)としたが、赤字転落は不可避とみられている。9月には混乱した配送網が正常な状態に戻る、としているが、長引く恐れがある。