熊本県に深刻な被害をもたらし、同県や大分県に経済的損失を与えた「熊本地震」から、まもなく1年たつ。被害に遭われた方のご苦労はなお続き、心身の痛手も永遠に消え去ることはないだろう。心から同情申し上げたい。一方で、企業活動は前を向かないと進まない。筆者は、東日本大震災で被災した地域や企業とも向き合い、復興への取り組みも取材してきた。
そこで今回は、東日本大震災で被災した“先輩企業”の取り組みを紹介したい。それは、宮城県気仙沼市に本社がある阿部長商店と三陸地方だ。阿部長は水産事業と観光事業を柱とする、気仙沼を代表する企業で、前期の売上高は約142億円と震災前の売上高に並んだ。社長の阿部泰浩氏は地域活性化にも熱心で、三陸特産の海産物を海外に輸出する活動も精力的に行う。そうした社内外の活動の成果や課題を紹介することで、被災地の企業はもちろん、顧客獲得に悩む企業やそこで働く従業員のヒントとしたい。
三陸の7社が共同で、東南アジアに海産物を輸出
「昨年3月から、青森と岩手と宮城の3県・7社の水産加工会社が連携し、『SANRIKUブランド水産物輸出プロジェクト』を立ち上げて活動しています。東南アジアの国を対象に三陸の水産物を輸出販売するものです。統一ブランドのロゴをつくり、品質基準を定めて商談を行ったり、現地のバイヤーを産地に招へいしたりしました。実質的な活動は半年で、輸出量が約20トン、売上高は約2500万円の成果を上げています」(阿部泰浩氏)
参加企業はヤマヨ(青森県八戸市)、八戸缶詰(同)、越戸商店(岩手県普代村)、國洋(同県大船渡市)、本田水産(同県石巻市)、木の屋石巻水産(同市)、そして阿部長の7社だ。いずれも東日本大震災の被災企業で、比較的事業が重複しない地域を代表する会社同士が知名度の高い「三陸」ブランドで連携した。復興庁の後押しもあって、助成金も活用した。共同での取り組みは、経費を応分負担できるメリットもある。
「昨年6月と7月、今年2月と3回に分けて東南アジアを訪問し、現地で商談を行いました。フィリピンやシンガポールでは現地日本食レストランで、インドネシアでは現地ホテルの会議室で試食をしてもらいながら商談を実施。日本の小売店で行うようなマネキンによる店頭試食販売も実施しました。東南アジアでも、寿司をはじめとする生食文化が芽生えてきたので、3カ国の現地バイヤーを日本に招へいし、実際に産地を見ていただき、生食の品質管理方法なども伝えています。1社単独では大量受注できなくても、7社合同で実施すればコンテナに搭載できる受注量になります。課題はありますが、滑り出しは上々です」(同)