東芝の再建問題は、3月末に急転回した。米原子力発電子会社ウェスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。これに対してトランプ米政権が難色を示し、日米間の政治問題化する様相を濃くしている。
トランプ政権はWHが法的整理された場合、従業員ら数千人がレイオフ(一時解雇)されることを懸念している。東芝のWH買収が海外からの投資事業の失敗例と見なされ、同政権が進める外国企業の投資促進や雇用拡大に悪影響を与えかねないと判断した。
世耕弘成経済産業相は3月16日、ロス商務長官、ペリー・エネルギー長官と米国でそれぞれ会談。両長官は「東芝の財政的な安定は米国にとって非常に重要だ」と述べた。世耕氏は両長官に対し、日本政府が把握している東芝の経営状況を説明、「政府間で情報共有を進めることが必要だ」ということで一致した。
日米の閣僚間で個別企業の経営状況が公式に議論されるのは異例だ。
「安倍政権は、“トランプ砲”を利用して東芝が潰れるのを阻止しようとしているのではないか」(外資系証券会社のアナリスト)
主力取引行の三井住友銀行とみずほ銀行は、7000億円規模の巨額損失の原因となったWHの連邦破産法の適用申請を3月中に行うよう、東芝に強く求めていた。原発建設の工事の遅れで追加損失が生じる懸念があり、銀行団からは法的措置により、債務を早期に確定すべきだとの声が強かった。
東芝はWHに約8000億円の債務保証をしている。破産法を申請すれば違約金や将来の損失など、損失が総額1兆円規模に達するとの試算もあったが、東芝は2017年3月期の純損失が1兆100億円の巨額赤字に達するとの見通しを公表した。
東芝自身もWHの破産手続きをし、損失を確定。その後、WH株式の過半を売却、連結決算から外したいと考えていた。WHの受け皿候補には韓国電力公社が浮上している。
だが、WHの破産申請にトランプ大統領が強く反発すれば、4月18日から始まる「日米経済対話」の障害になるため、政府内に慎重論があったのは事実だ。安倍首相がトランプ大統領の顔色ばかり見ていると、東芝の再建問題が暗礁に乗り上げる懸念があったが、東芝は背に腹は代えられない。破産法の申請に踏み切った。
東芝メモリの行方
東芝は3月30日の臨時株主総会で、経営再建策の切り札としている半導体事業の分社化の承認を得た。原子力の責任者だった志賀重範前会長が「健康上の理由」で総会を欠席するというお粗末ぶりで株主の怒りを買ったが、分社化は承認された。これにより、4月1日に東芝メモリは発足した。
東芝メモリに、米社などが2兆円の買い値をつけたという情報がある。政府系の日本政策投資銀行が出資する方向。経済産業省の官民ファンド、産業革新機構も「半導体の先端技術が海外に流出するのを防ぐため」という名目で出資する腹づもりだ。東芝メモリの議決権の34%を確保し、重要事項に拒否権を発動できるようにしたい考えだ。
しかし、株式の3割を握るには3000~5000億円のキャッシュが必要になる。売却額が2兆円になれば6800億円が必要となる。首相官邸は税金を投入してでも東芝を救済したいのだろうが、“ゾンビ企業”に公的資金を注入すれば強い批判が起きることは必至。