東芝メモリの株式の入札には、米国勢も関心を示している。同業大手の米ウエスタンデジタルやグーグル、アマゾン・ドットコムのほか、アップルも応札したとみられている。このほか、韓国のSKハイニックス、シャープを買収した鴻海精密工業と半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)の台湾連合、中国半導体大手の紫光集団が応札した模様だ。
政府は、中国や台湾の企業が売却先になった場合、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて中止や見直しを勧告する見通し。東芝の半導体技術は安全保障に関わる重要技術とみて流出を防ぐ方針だ。虎の子の東芝メモリの売却に関しても、政府の縛りがかかった格好だ。安倍官邸が縛りをかけた本当の狙いは、日米経済対話への対策だとみられている。
「政投銀の出資は、政府保証のようなもの。東芝をつぶさないとの宣言だ」(外資系証券のアナリスト)
こうしたなか、米国のIT企業や米投資ファンドの陣営に政策投資銀行と産業革新機構が加わる、日米連合で東芝メモリの株式の34%を握るという構想が急浮上してきた。「東芝メモリで日米連合を組むことで、WH問題で米側の批判をかわす狙いがある」(関係筋)との指摘もある。
3度目の決算発表延期も
4月3日になって、11日に期限を迎える2016年4~12月期決算の発表ができなくなる恐れが出てきた。監査法人が「16年3月期決算について疑義がある」と指摘しているためだ。PwCあらた監査法人が、16年3月期決算にさかのぼって、WHに関連する監査(新日本監査法人が担当)が適切だったかどうかを調査する必要があると、東芝に伝えたという情報もある。
東芝は2月14日と3月14日の2回にわたり決算発表を延期した。4月11日に決算を発表できない場合、関東財務局に期限延期を申請して認めてもらう必要がある。金融庁によると「3度の延期は前例がない」という。延期が認められなければ、期限から8営業日目にあたる4月21日までに決算発表ができないと、東京証券取引所の規定で、東芝の上場廃止が決まる。上場廃止のリスクが一気に高まった。
東芝の再建問題が混迷を深めるなか、旧M&Aコンサルティング(旧村上ファンド)系の出身者が設立したシンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが東芝の株式を8%強取得して筆頭株主に躍り出た。さらに、エフィッシモが4月7日付で関東財務局の提出した大量保有報告書によると、東芝株の保有比率は3月末時点で9.84%と、これまでより1.7ポイント増加した。高いリターンを得られる好機と判断した。7日の東芝株の終値(216円)で単純計算すると、合計の取得費用は900億円を超えた。主力3行は東芝を当面、支えるとしているが、地方銀行など融資の引き揚げを決めたところもある。三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の三菱UFJ信託銀行は保有する東芝株の一部を売却。同グループの東芝株の保有比率は5.14%から3.54%に低下した。
日米関係筋によると、米国の大手会計事務所、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)がWHの監査を担当している。WHのトップによる、社内への決算の数字を良くするよう指示した圧力について、過去に遡って決算の数字を修正するかどうかを実際に調査しているのは、世界的法律事務所K&L Gatesである。K&Lからレビュー報告書がPwCに出されないために東芝は決算を発表できずにいる。K&Lの態度は依然厳しいとされており、これが3度目の決算発表の延期説の根拠になっている。
(文=編集部)