毎年3月、適正な地価の形成に寄与するために、国土交通省土地鑑定委員会が1月1日時点における標準地の正常な価格を公示しています。今年も2万6000地点ものデータを調査し、公示されました。
しかし、この公示地価とは無縁なほど高額な価格で不動産、特に土地が取引されている現場が存在します。以前ほどではなくなりましたが、太陽光発電設備を設置するための土地取引がその現場となっています。
筆者が見てきた現実の世界は、とんでもない不動産取引が繰り広げられていました。まだ一部の地域では、その状況が続いていると思われますが、今回はその一端をご紹介します。
太陽光発電と不動産は、あまり関係ないようにも思えます。一般の方にとって太陽光発電といえば、省エネ対策として屋根に太陽光発電パネルを設置して、自家発電した電力を自家利用(または余剰売電)するものを思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、2012年7月に公布された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下、再エネ特措法)」によって、高額な「再生可能エネルギーに対する固定買取制度(FIT)」により、業界では発電総量を売電する産業用発電が一気に脚光を浴び、太陽光発電設備を設置する土地の争奪戦が始まりました。
12年度申請の電力買取価格(電力会社が発電事業者から電力を買い取る価格=FIT価格)は、1kwあたり40円(税別、以下同)とされました。ちなみに、現在のFIT価格は、10kw以上2000kw未満では21円まで下がっています。
この制度は急遽決定された嫌いがあり、発電事業者そのものや設備に対する認定基準が明確に定まっていないまま、発電事業者の参入障壁が低いなかでスタートしました。そのため、太陽光発電事業用地として向いていそうな土地が手当たり次第に取引の対象となりました。
また、一度認定を取ってしまえば、FIT価格がキープできるという状況であったことに加え、その翌年度から36円に値下げされることが決まっていたため、40円で確保された権利付きとなった事業用地は、実勢価格からはかけ離れ、想定利回りから見ただけの高値で取引されるようになりました。
700万円の山が3億円で取引
筆者が土地を調査した太陽光発電事業案件のなかには、都市計画法や農地法といった法律を知っていれば、まず太陽光発電事業用地として不適格な土地であることが明白なものや、がけ地で太陽光発電設備を設置するには膨大な造成費がかかり、投下資金回収が難しいものなど、事業用地にふさわしくない土地が多数存在しました。
なかでも特に驚いたのは、再エネ特措法が施行される1年前に700万円で売買されていた山林が、「FIT価格40円の権利と併せて」という条件付きながら、12年には3億円で売買された案件です。実に、その価格は3年で42.8倍になった計算です。こうしたことが至る所で繰り広げられていました。
太陽光発電などの再生可能エネルギー発電設備の事業用地に絡む問題は、ほかにもたくさんあり、再エネ特措法が施行された当初は、土地所有者が知らないうちに勝手に事業者によってその土地を発電事業用地として申請されていたケースや、地番がひとつずれただけで、実質的に同じ土地に設備認定(FIT価格の認定)が複数確保されたケースなど、太陽光事業用地に絡む土地問題は枚挙に暇がない状態でした。
こうした状況を打開するべく、現在は経済産業省が固定買取制度の見直しに着手し、本年度からより一層厳しい認定基準となりましたが、逆に正式に認定を受けている事業用地の一部は、依然として高額な取引価格で土地が売買されているようです。
機会があれば、またこうした太陽光発電事業に絡む土地問題の実例をご紹介します。
(文=秋津智幸/不動産コンサルタント)