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小林敦志「自動車大激変!」

新型ノートは販売トップを死守できるのか?日産の“e-POWERモデルのみ”戦略に潜むリスク

文=小林敦志/フリー編集記者
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日産の「ノート」(「日産:ノート [ NOTE ] 電気自動車 (e-POWER)」より)

 2020年11月24日に日産自動車の新型「ノート」が発表となった。3代目となる新型ノート最大の話題は、発電用ガソリンエンジンを搭載し、電動モーターが駆動する“e-POWER”のみのラインナップということである。

 2代目から設定されていたe-POWERは、当時も話題のユニットとして注目されていたが、“割高イメージ”も先行していた。しかし、すでに発表されている新型ノートの価格を見ると、トヨタ自動車「ヤリス ハイブリッド」やホンダ「フィット ハイブリッド」といったライバル車とほぼ同レベルとなっているので、その面では割高イメージは感じず、そのメカニズムを考えれば“割安イメージ”すら感じてしまう。その点では、e-POWERのみにしたメリットがあるといえよう。

 ただし、それはあくまで電動ユニット搭載モデル同士を比較した場合の話。ヤリスやフィットには、ガソリンエンジン搭載モデルも設定されている。しかも、ヤリスには1.5Lのほか1Lも用意されている。フィット ハイブリッドはノートが搭載するe-POWERと同じようなシステムといってもいいものであるが、それでもガソリンエンジン搭載車をラインナップしている。日産としては電動パワートレーンのみにすることで話題性が高まるだろうが、販売現場も足並みが同じとは考えにくい。

 ヤリスの発売から半年後にトヨタ系ディーラーを訪れると、セールスマンはこう話してくれた。

「発売になった頃は“新型車需要”といいますか、ハイブリッドの注文をいただくことが多かったです。しかし、今ではガソリンエンジン車の方が受注は多いですね。今時はガソリンエンジン車も燃費はかなり良くなっております。ハイブリッドの方がもちろん燃費数値としてはいいですが、その分価格も高くなっております。一般的な乗られ方や保有年数では、まず『価格差(ハイブリッドの方が高い)を節約できたガソリン代で相殺するのは無理ですよ』とご説明するようにしております」

 この当時は納期もハイブリッドはほぼ即納状態だったが、ガソリンエンジン車はやや遅延傾向となっていた。

 フィットを扱うホンダカーズ店へ行くと、「フィットのホーム(ガソリンエンジン車)ですと、ご購入後の維持費は別となりますが、車両購入時の支払い額ではN-BOXより買い得感はより高く見えます」と説明を受け、出てきた見積りを見ると、確かにN-BOX より支払総額の買い得感は高かった(N-BOX 並みの予算で買えるということ)。

 同じモデルでハイブリッド車とガソリンエンジン車がある場合は、ハイブリッドをあえて選ぶほど“エコノミー”面でのメリットは薄いとされている。そのため、販売現場では購入希望客が特に興味を示していたり、“指名”したりしているケース以外は、積極的にハイブリッドを勧めない傾向があるようだ。

「“エコロジー”面を意識しているお客には、もちろんハイブリッドを勧めているようですが、たいていのお客は“エコノミー”面を重視しています」とは業界事情通。

 コンパクトカーは、日常生活の移動手段として割り切って乗る人も多い。そのようなニーズも多い中で“クルマ好きの間で評判のいいメカニズム”を搭載しているからというだけで、ヤリスやフィットに販売実績面で勝とうと考えていたら、それは少々甘い判断といっても過言ではないだろう。ハイブリッドを持たずに1Lエンジンのみを搭載するトヨタ「ライズ」が、お手頃サイズとお手頃価格のSUVスタイルのモデルとして大ヒットを続けているのを見れば、それは一目瞭然ではなかろうか。

新型ノートは販売トップを死守できるか?

 新車販売台数面では、2018暦年での年間販売台数(2019年はフィットが末期モデルだったので)では、フィットの9万720台、トヨタ「ヴィッツ」(ヤリスがなかったので)の8万7299台を抑え、ノートは13万6324台を販売し、ライバルを追い抜いただけでなく、登録車でも販売ナンバー1となっている。しかし、e-POWERのみとなった新型ノートでもこのペースを維持し、“コンパクトカーで販売ナンバー1”と言い続けられる販売実績が確保できるのかといえば不安が残る。

 残念だが、フィットやヴィッツ(ヤリスも)は販売台数の上積みのためにレンタカーやカーシェアリング、法人営業車などのフリート販売も積極的に行っている。その際、もちろんハイブリッドも販売しているが、フリート販売の主役はあくまでガソリン車となっている。ノートも先代ではフィットやヴィッツ(ヤリスも)同様にフリート販売を積極的に行っていたが、そのすべてがe-POWERというわけではなかっただろう。

 ヤリスは発売後すぐにWITHコロナの時代になったが、都市部では「わナンバー(レンタカー)」の車両を頻繁に目にする。程度の違いはあるものの、フィットも状況は同じである。ノートが今までの販売台数を維持しようとするならば、フリート販売もe-POWERのみとなるので、わかりやすく表現すれば、ライバル車に勝つために“e-POWERの大安売り”が、発売直後から常態化することにもなりかねない。

 これではブランドイメージのダウンも避けられず、リスクが高いともいえるが、日産はそういった面も十分考慮して今回のラインナップに踏みきったのだろうか。販売競争の激しいコンパクトカークラスでは、“きれいごと”だけでは販売ナンバー1になどなれないほど“生臭い”のは、日産とて承知のはずであろう。

 2代目ユーザーの中には、e-POWER仕様もあるのにガソリンエンジンを選んで乗っているユーザーもいるが、これらのユーザーに新型ノートへの代替え促進を行うのは難しいといえるし、新型での“英断”は、そのようなユーザーに対する“他メーカー車へ乗り替えていただいてかまいませんよ”というメッセージにすら感じる人もいることだろう。

 もちろん、新型ノートが電動車として、ヤリスやフィットのハイブリッドとは異なり、政府の手厚い補助金交付の対象車となれば話は別だが……。ただ、前述したように、フィットのハイブリッドもe-POWERに近いものと考えられるので、新型ノートのみが優遇されるということもなさそうだ。

 新型ノートが登場する直前に日産で量販が期待できたのは、先代ノート、「デイズ」と「ルークス」「セレナ」だけであった。すでに選択肢が少ない中で、新型ノートにガソリンエンジンが設定されなかったのは、選択肢を減らしたという点では、かなりリスクの高い選択のようにも見える。

「日産でガソリンエンジンのコンパクトカーが欲しければ、マーチがあるだろう」という声もあるが、現行マーチは2010年デビューのご長寿モデルであり、その役目を担うのはきつすぎるといえるだろう。販売現場としては、ライズのようなコンセプトのモデルが欲しかったに違いない。

同クラスに多数のモデルを揃えるトヨタの強み

“トヨタ1強”といわれるが、たとえば、ヤリスが今ひとつ気に入らなければ、同クラスには「パッソ」「アクア」「ルーミー」「ポルテ&スペイド」、ライズがあり、ここまで同クラスで多数のモデルがあれば、まず他メーカーに流れることはないだろう。しかし、日産ではコンパクトカーで考えても、すでにノート以外に選択肢は事実上ない。そこで「e-POWERにそれほど興味がない」とか「価格が高い」と言われれば、「それではこちらはいかがでしょうか」とはならず、多くがライバルメーカーに流れていってしまうだろう。

“間口”を狭めたノートが、今後も“コンパクトカーナンバー1”を死守していこうとするのならば、販売台数においてどのように競争激戦クラスで勝ち抜いていけるかといえば、手っ取り早くは値引きの拡大とフリート販売、自社登録の強化しかない。しかし、すでに“ご長寿”で値引き条件も十分に拡大しているアクアが、そこには待ちかまえている。

 あえて“販売ナンバー1”はあきらめ、マツダのように“値引きは控えます”として大切に販売し、台当たり利益を厚くするのかといえば、セレナやデイズ、ルークス系は、いずれも競争激戦クラスであり、ライバル車ともどもズブズブの値引き拡大を展開しており、ノートだけ手堅く売るというのも難しい。

 今回のe-POWERのみのラインナップの先には、やがてノートはBEV(純電気自動車)のみのラインナップになるとの話もあるが、販売現場はそこまで先を見越して販売活動はできない。軽自動車並みに“量を売ること”がマストとされるカテゴリーだけに、ノートの今後のセールスプロモーションを、実に興味深いものとして消費者の反応も含めて今後も見ていきたい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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