スキー、スノーボード用ワックス製造販売会社のガリウムは、2018年の韓国・平昌(ピョンチャン)五輪・パラリンピックで同社契約選手が表彰台に乗った場合、メダルの色に応じた特製小判を贈ると公表した。金メダルには加工代を含めて20万円以上の純金製小判をプレゼントする。結城谷行社長は、「選手のモチベーションになる」と公表の意図を明かしている。
ところで、ガリウムとは、どんな会社なのか。世間的には無名だが、国内メーカーで唯一、全日本スキー連盟の指定を受け、女子ジャンプのスーパースター、高梨沙羅選手(クラレ)らにワックスを供給している会社だ。選手たちの活躍を縁の下から支えているワックスメーカーなのである。
ガリウムの名前が注目されたのは、14年2月にロシア・ソチで開かれた冬季オリンピックだ。ノルディックスキー複合個人ノーマンヒルで渡部暁斗選手(北野建設)が銀メダルを獲得し、日本に20年ぶりのメダルをもたらした。最後まで激しい首位争いを演じた渡部選手の滑りを支えたのは、国内メーカーが独自技術で開発したワックスだった。
社名にもなっているガリウムという金属が入ったワックスは撥水性が高く、ソチの重く湿った雪に対して抵抗が少なかった。同社は五輪の3年前からソチの雪に合わせたワックスづくりに取り組んだという。
渡部選手は、「今日はワックスが良くてスキーが滑ったから、先頭で引っ張れた」とワックスの性能を認めた。この発言が伝わり、独創的なワックスを開発したガリウムにテレビや新聞の取材が殺到し、一躍、注目される存在となった。
小さな“オンリーワン”企業
社長の結城氏は、山形県最上町の出身。山形県立尾花沢高校(現・北村山高校)時代にノルディックスキーの距離選手として頭角を現わした。1988年、27歳の時、念願かなって、カナダのカルガリーで行われた冬季オリンピックに出場したが、クロスカントリースキーの15キロで52位、30キロで57位、50キロで39位と不本意な成績に終わり、引退した。その際、海外選手との道具の差を痛感したという。
ガリウム入りワックスは偶然から生まれた。30年以上前、製錬会社の従業員が机にこぼしたガリウム粉末を拭き取った際に、水をはじく性質があることに気付き、この従業員はガリウムをワックスに混ぜてみることを考案した。製錬会社で製品化し、94年にワックスメーカーとして独立させた。
社長に招かれた結城氏は、カルガリー五輪の距離に出場した縁で、98年の長野五輪から日本代表チームにワックスを提供するようになった。
ソチ五輪で脚光を浴びた“究極のスキーワックス”は東北大学とガリウムが共同で開発したもの。会社から4~5人でソチに行き、スキー板に最適なワックスを生み出すために、空気の重さから雪質まで、すべてを徹底的に調べた。それが奏功し、ジャンプや複合で好成績を収めた。
スキーはワックスの性能次第で逆転もできるスポーツだ。平昌五輪では、ガリウムのワックスを使用したうえでメダルを獲得し、特製小判を手にする選手が続出するシーンを見たいものだ。
現在、競技スキー界では欧州メーカーのワックスが主流になっている。ソチ五輪に続いて平昌五輪でもジャンプや複合で大躍進すれば、小さなオンリーワン企業の国産ワックスが、グローバルな製品として普及することになるかもしれない。
(文=編集部)