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高収益企業ファナック、なぜ利益率が40%から14%へ急低下?「中国製造2025」の脅威

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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ファナックの支店(「Wikipedia」より/Miyuki Meinaka)

 10月29日、工場の自動化(FA)関連の数値制御(NC)装置やロボットを製造するファナックが2020年度第2四半期の決算を発表した。同社の業績は、中国をはじめとする自動車の需要回復などが支えとなり4~6月期から業績は改善している。通期の業績予想に関しては純利益が718億円に達する見込みだ。昨年度の純利益は734億円だった。

 その一方で、2018年度以降の同社の売り上げは右肩下がりで推移し、営業利益率も低下している。決算資料から確認できる要因として、設備の償却負担や、成長を支えたFA関連事業の売り上げの伸び悩みがある。NC装置など一部分野でファナックの競争力は高いものの、同社にとって新しい成長の柱(稼ぎ頭)を確立することの重要性は高まっている。

 現在の世界経済の環境変化は、ファナックが新しい収益の柱を確立するチャンスだ。米中の対立激化などが要因となり、世界の工場としての役割を発揮してきた中国からインドなどに生産拠点が急速にシフトしている。そうした変化に合わせて、同社がアジア新興国地域で製造業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の旗手としての地位を確立できれば、さらなる成長は可能だろう。そのために、同社が社内外の新しい発想を取り込み、より効率的な生産活動を支えるソフトウェアや技術開発に注力することを期待したい。

ファナックの成長を支えたNC装置

 ファナックは、コンピューター制御されたNC装置の創造によって、世界の生産活動を変えた。NC装置という稼ぎ頭をファナックが育て上げたことが、高成長を支えた要因の一つだ。NC装置に関して、ファナックは世界のパイオニアといってよい。

 ファナックがコンピューター制御によるNC装置を開発するまで、世界経済の生産活動を支える工作機械の供給に大きな影響を与えたのはGEをはじめとする米国企業だった。当時の工作機械は製造するモノに合わせてパーツを取り換えるなど、運用にコストがかかった。

 1975年、ファナックはインテルが開発したマイクロプロセッサーを搭載したNC装置を開発した。それを境に工作機械の運用は人による機器の設置や運用から、ソフトウェアによる制御へと移行し始めた。企業は需要に応じて多様な製品を、大量に生産することが可能となった。工作機械の技術革新が世界経済の成長に与えた影響は大きい。

 その結果、より効率的な生産を支えるNC装置分野でファナックは世界のトップ企業としての地位を確立し、高い成長を実現した。それは同社の営業利益率の推移から確認できる。2000年代に入り、中国は工業化の初期段階を歩み、世界の工場としての地位を確立した。ファナックは中国での設備投資需要を取り込んで業績を拡大した。その結果、2007年度、同社の営業利益率は40.5%に達した。

 2008年9月15日のリーマンショックの発生によって営業利益率は低下した後、中国政府が実行した4兆元(当時の邦貨換算額で57兆円程度)の経済対策が追い風となってファナックの業績は拡大した。その結果、2010年度の営業利益率は42.5%まで上昇し、2014年度まで40%近い水準を維持した。アップルのiPhoneのヒットによって各国企業の設備投資が増加し小型切削器をはじめとする工作機械への需要が高まったことも、同社の高成長を支えた。ファナックはコンピューター制御NC装置の市場を開拓し、その先行者利得を手に入れることによって高い成長を実現し、得られた収益を成長のための投資に回すことで高収益体質を磨いた。

営業利益率低下の要因

 しかし、需要がいつまでも拡大することはない。需要はいずれ飽和する。それに加えて、新しい技術の登場によって競争は激化する。それらは利益率を低下させる主たる要因だ。

 決算資料を見ると、近年のファナックはそうした状況を迎えつつあるようだ。それは営業利益率の低下から確認できる。2015年度、ファナックの営業利益率は34.6%に低下し、2018年度は米中対立の影響などから25.7%に低下した。2020年度の上期の営業利益率は14.0%だ。なお、ファナックの営業利益率は日本企業の平均的な水準より高い。

 本年度上期の決算資料に掲載されているデータを確認すると、NC装置をはじめとするFA関連事業の売り上げと受注は、ほぼ横ばいだ。FA関連の需要はインドで増加している。また、ロボットとロボマシン事業では、多少の変動を伴いつつも、売り上げと受注ともに増加傾向だ。10月14日には独自動車大手フォルクスワーゲンが米チャタヌーガ工場と独エムデン工場での電気自動車(EV)の生産向けに1400台超のロボットをファナックに発注した。世界全体で生産手段としてのロボットの重要性は高まっている。

 ただし、ロボット市場における競争は激化している。ロボット市場ではスイスの重電大手ABBや、日本の安川電機や川崎重工業、中国の家電メーカーである美的集団傘下の独クーカがシェアを競っている。それに加えて、中国では「中国製造2025」の下で産業用ロボットの国産化が重視され、政府系研究所を母体とする瀋陽新松機器人自動化をはじめとする地場のロボットメーカーが台頭している。

 一部では中国企業の制御技術は日本などに及ばないとの指摘がある。その一方で、ソフトウェア面での中国の開発・競争力は世界的に高い。国家による補助金政策や海外からの技術移転によって、中国のロボット技術が向上し、日欧の企業と肩を並べる可能性は否定できない。また、中国が経済成長の限界を迎えつつあることを考えると、共産党政権は自国技術の向上と活用を優先しなければならない。一部の分野で競争力を発揮しているファナックではあるが、同社を取り巻く競争環境は一段と激化し始めている。

ファナックに求められる新しい取り組み

 今後の展開を考えると、工作機械や産業用ロボット分野では中国企業の低価格攻勢が進む可能性がある。ファナックが価格競争に巻き込まれないようにするためには、コンピューター制御のNC装置に変わる、新しい稼ぎ頭が必要だ。新しい発想を他社に先駆けて実現し、それをヒットさせることができれば同社が再度、高収益企業として社会からの評価を得ることは可能だろう。その展開を期待したい。

 一つの可能性として注目したいのが、工場のデジタル化(DX)だ。世界では開発と生産の切り離しが加速している。多くの企業が高付加価値の製品を生み出すために、デザインや設計、技術開発など知識集約的な分野に注力している。半導体分野ではそうした取り組みが進んでおり、受託製造企業としての台湾のTSMCの存在感が高まっている。

 また、先述したフォルクスワーゲンのロボット導入は、自動車のEV化とともに、自動車の生産方式がデジタル家電型のユニット組み立て方式に移行することを先取りしたものといえる。そうした取り組みをやや長めの目線で考えると、工場のデジタル化への取り組みは加速するだろう。つまり、工場にはIoTによって制御されたロボットや工作機械が並び、それをタブレットPCやスマートフォンで担当者が管理・運用するという生産体制が実現する可能性がある。

 ファナックはそうした展開を念頭に置いた取り組みを進めている。その一つとして同社は、富士通とNTTコミュニケーションズと共同で製造業のデジタル化支援を目的とするDUCNET(ディーユーシーネット)の設立を発表した。興味深いことは、NTTグループの再編(電電ファミリーの再結成)が進むなかで、新会社が設立されたことだ。NTTはGAFAM等の大手IT先端企業に対抗すべくグループ企業の統合やNECへの出資によって次世代(6G)の高速通信技術の研究開発などを目指している。

 そうした新しい技術と、ロボットや制御技術をはじめとするFA技術の融合によって、ファナックは製造のデジタル化需要を創出し、取り込むことができるだろう。それは世界の生産活動にさらなる変革をもたらし、同社の成長を再加速させる可能性を秘めている。その点でファナックのさらなる取り組みに注目したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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