日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車。今年7月に米自動車メーカー、テスラに時価総額で抜かれてしまったものの、コロナ禍で業績を回復させ、9月には世界販売台数が9カ月ぶりに前年同月比で増加するなど、その強さは健在だ。
そんなトヨタは2018年11月開催の全国トヨタ販売店代表者会議で、25年までに車種を30程度にまで減らしていくという指針を発表。すでにさまざまな車種が統合、生産終了され、最近では9月中旬に居住性と取り回しに優れたハイトワゴンのポルテとスペイドが生産を終了した。
さらに、11月11日にはトヨタを代表する高級車・クラウンが生産終了するという報道も。クラウンは1955年にトヨタのフラッグシップカーとして誕生し、そのネームバリューの高さから「いつかはクラウン」というキャッチコピーが生まれるほど、長い間憧れの眼差しを向けられてきた車種。
なぜトヨタでは今、車種の整理が進められているのだろうか。その理由を、かつて池袋で営業されていたトヨタ直営のショールーム「アムラックス東京」に勤務していた経験のある、All About「車」ガイドの小池りょう子氏に聞いた。
新車種の台頭やトレンドの移り変わりで、クラウンさえ淘汰?
ポルテとスペイドの特徴は、助手席側に大開口のスライドドアが取り付けられていることにある。広々とした開口部によってベビーカーを畳まずに乗せられることや、車いすのまま乗ることが可能なのだ。
ファミリー層の支持を得たポルテとスペイドが生産中止となった要因は、同じくハイトワゴンに分類されるルーミー、タンクの登場にあるという。
「スペイドは2012年に登場した車種で、ポルテは04年に初代が登場し、フルモデルチェンジした2代目が12年に登場しており、その当時はこういった車は目新しいものでした。しかし16年に登場したルーミーとタンクがスタイリッシュかつモダンなデザインで好評を博し、ポルテとスペイドの人気は低迷してしまったんです。
また、ハイトワゴンと同じく居住性に優れたSUVにコンパクトな車種が登場したことも、生産終了の理由のひとつだと思われます。これまで日本でSUVは大型で取り回しづらいことから流行していなかったのですが、小型化したSUVが各メーカーから登場しており、デザインに惹かれたユーザーがハイトワゴンから流れていってしまったのでしょう」(小池氏)
生産終了が囁かれるクラウンについても、トヨタの高級車として人気のレクサスやアルファードの存在や、クラウン自体の知名度の低下が影響しているのだという。
「40代ぐらいの方々から見てもクラウンは“部長になったおじさんが乗る車”というイメージがあり、自動車業界で活躍されているジャーナリストや編集者でも、クラウンに乗っている方は多くないという印象があります。ですから、さらに若い世代となると、クラウンと聞いてもピンとこない方も多いでしょう。
トヨタはおろか日本の高級車のシンボルともいえる、クラウンというブランドをなくすという決断は、トヨタにとって非常に大きいはず。ただ、若い世代が憧れを抱くような高級車がレクサスやアルファードに移り変わった今の状況を思うと驚きはないですし、トヨタ的にも経済的な損失にはならないような気がします」(小池氏)
変革を恐れず未来を見据えて突き進むのがトヨタスタイル
ポルテとスペイド、クラウンだけでなく、さまざまな車種が2018年以降生産終了ないし車種統合されているが、小池氏によれば、どれも時代の変化を踏まえた必然的な帰結だったという。そして、トヨタで車種整理が進められる背景には、販売店の大きな変化もあるのだとか。
「これまでトヨタではトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の4つの販売チャネルがあり、それぞれのチャネルで違う車種を取り扱ってきました。ですが、2020年5月から販売チャネルの統合が開始され、全チャネルで全車種を販売するという形にシフトしていっています。チャネル統合はユーザーにとって利用しやすいお店にするという側面もありますが、時代の変化への対応が最も大きい理由でしょう。
現在では好きなときに手軽に車を借りられるカーシェアリングや、年単位で車を借りるカーリースのようなサービスを利用し、自分の車を所有しない方が増加しています。また、中古車市場ではインターネット購入が一般化しており、これからはテスラのように新車をインターネットで販売するメーカーも増えていくでしょう。
そういった状況のなかで生き残るため、チャネルごとに微妙にデザインが異なる兄弟車種の統合によるコストカットや、販売拠点の整理をトヨタは行っているのだと思われます」(小池氏)
世界的に見てもいまだ自動車メーカーとしては上位に君臨するトヨタが、先々を見据えて行動を起こしているのは、トヨタという会社自体の社風が大きく関係していると小池氏は語る。
「トヨタは工夫することや改善することにすごく重きを置いていて、変化を恐れない社風なんです。不要なものは切り捨て、新しいことは前例がなくともためらわずにチャレンジしていくという社内の空気があるため、今の時代でも業績を伸ばし続けているのだと考えられます。
私がアムラックス東京に勤めていた90年代でも、売上が低迷している車種は切り捨てて、時代が求めるものを先行して開発し、販売の現場でも売っていくというスタンスでした。新しいものを次々に取り入れて販売していくトヨタの姿勢は、変化が著しい自動車業界を生き残るうえで大事なことだと思いますね」(小池氏)
世界に誇れる大企業でありながら、歴史や伝統に縛られずに新たな道を開拓し続けるトヨタ。同社が打つ次の一手がいかなるものなのか、車好きでなくとも目が離せないところだ。
(文=佐久間翔大/A4studio)