11月6日、トヨタ自動車の豊田章男社長がオンライン会見で、2021年3月期の第2四半期(4~9月期)連結決算を発表。コロナ禍による萎縮から市場が急速に回復しつつあるといい、今年度の通期での業績予想を大きく上方修正してみせた。それによれば、グループ全体の2021年度の最終的な純利益は、当初発表されていた7300億円から大きく上伸びし、1兆4200億円になるという。
そのお膝元たる日本は、新車販売台数の約4割が軽自動車という特殊な市場である。そこで今回は、「2020年の今、“買い”の軽自動車は?」というテーマで論を進めてみよう。
2011年に登場したホンダ・N-BOXの衝撃
軽自動車というとかつては、「安い」「小さい」「走らない」だった。ボディサイズやエンジン排気量に制約がある一方で、税金面では小型車や普通車といった登録車と比べるとアドバンテージが大きい。現在でも税金などのランニングコストは安く抑えられるメリットは変わらないが、ボディの大型化、エンジンはモーター機能を備えたマイルドハイブリッド化、さらに先進の運転支援システムまで装着され、新車価格が200万円を超えるクルマも登場し、かつての軽自動車のイメージは一変している。
特に近年の軽自動車のイメージを一変させたのが、2011年に登場したホンダ・N-BOXだろう。
それまでの軽市場では、スズキとダイハツの二強による販売競争が繰り広げられていた。そこにホンダが本格的に参入。小型車に匹敵する高い質感を軽自動車にも採用したことで、軽自動車の勢力図を一変させた。N-BOXは2015年には軽自動車の新車販売台数トップに、さらに2017年度には普通車も含めた販売台数でトップに輝き、現在もその勢いは止まっていない。2017年には、クルマの基礎となるプラットフォームをはじめ、エンジン、ミッションなどを新開発し、2代目に進化。ホンダ独自の先進の運転支援システムである「ホンダセンシング」も採用し、他社との差別化を図った。
N-BOXの作ったこの新しい軽自動車の潮流に各社が追いつき始めたのが、2019年だ。この年に登場した日産デイズ/三菱eKワゴン・X(クロス)の兄弟車は、クルマをイチから作り直しただけでなく、高速道路などで半自動運転走行が可能な「プロパイロット(三菱はマイパイロット)」を搭載。そのしっかりとした走行性能や質感は、これまでの軽自動車とは一線を画すレベルに到達していた。
このデイズ/eKワゴン・Xを皮切りに軽自動車は、走り、安全性などの質感の向上が図られていった。つまり自動車のなかでも特に軽自動車の日進月歩の進化の幅は大きく、3年前に登場した2代目N-BOXの商品力がすでに色褪せ始めているように、賞味期限がどんどんと短くなっているのだ。
軽自動車売れ行きベスト10のうち、半数は「軽スーパーハイトワゴン」という現実
現在の軽自動車のトレンドは、新車の販売台数を見るとよくわかる。最新の2020年10月度のデータで見てみると、トップのホンダ・N-BOX、2位のダイハツ・タント、3位のスズキ・スペーシア、そして6位の日産・ルークス。この4車種は現在の軽自動車の主力である、「軽スーパーハイトワゴン」と呼ばれるモデルだ。このモデルの特徴は、軽自動車で最大級の室内空間をもち、リアには両側スライドドアを採用したファミリー向けのクルマ……という点。
4位のダイハツ・ムーヴも、現在販売が好調なのはリアに両側スライドドアを採用したムーヴキャンバスなので、実質的にはベスト10のうち、半数は軽スーパーハイトワゴンということになる。そして5位のダイハツ・タフト、7位のスズキ・ハスラーはいわゆるクロスオーバーSUVといわれるモデルなので、こちらは普通車と同様の人気傾向、ということになるだろう。
筆者はフルモデルチェンジだけでなく、マイナーチェンジ、一部改良を含めて、国産、輸入車を問わず年間200台以上の新車に乗っている。そんな筆者の軽自動車選考基準、まず1つ目は走行安定性。これはボディがしっかりとしていて、不快な揺れが少なく、後席の乗り心地が良いこと。2番目はパワートレイン。排気量が660cc以下と制約がある軽自動車だけに、過給器の存在以上にモーターによるアシストの効果は大きい。それは加速性能だけでなく、燃費性能にも大きく影響があるからだ。そして3番目は、先進運転支援システムの充実度だ。前述の通り売れに売れており、幅広い年齢層が乗る軽自動車ゆえ、いまや踏み間違い防止機能などの運転支援システムはぜひとも充実しておいてほしいところ。もちろんただ付いているだけではなく、その性能も重要視したい。
マイルドハイブリッド機能を採用しているのは日産/三菱連合とスズキだけ
軽スーパーハイトワゴンは広い室内空間を確保するために車高が高く、ゆえに重心も高くなる。さらにスライドドアやリアのハッチの開口部が大きいため、ボディの歪みも大きく走行安定性でマイナスとなる。そのうえ、安全性能をはかる自動車アセスメントのテストでも軽スーパーハイトワゴン系は不利になりやすい。ということで、人気のN-BOXを含む軽スーパーハイトワゴンは、走行安定性においては残念ながら脱落……ということになってしまう。
続いてはパワートレイン。現在、軽自動車は日産/三菱連合、ホンダ、スズキ、ダイハツの4社が製造しているが、このうちマイルドハイブリッド機能を採用しているのは日産/三菱連合とスズキだけで、ホンダとダイハツは燃費性能面で2社にリードを許している。
3番目の先進の運転支援システムという点では、高速道路での追従走行が可能な「アダプティブクルーズコントロール」であれば、現在では全車で採用されている。
こうした点を踏まえた結果、乗車経験もある軽自動車のなかから筆者がチョイスしたのは、日産デイズとスズキハスラー。この2台に再試乗し、ベストチョイスを決定することとしたのである。
ミリ波レーダーを搭載し、2台前のクルマの動きを検知してドライバーに注意を促す日産・デイズ
まずは日産デイズ。
2019年に登場したデイズだが、2020年8月に一部改良を行い、運転支援システムをアップデートした。これまでは単眼カメラのみを使用していたが、新たにミリ波レーダーを追加し、2台前のクルマの動きを検知してドライバーに注意を促す「インテリジェントFCW(前方衝突予測警報)など、さらに機能が充実したのである。こうした新しいデバイスを追加したことによって、高速道路などで半自動運転走行が可能な「プロパイロット」の機能もより充実したものになったといえよう。
デイズには、「標準車」とスポーティな「ハイウェイスター」の2モデルがあるが、試乗したハイウェイスターでは、以前はオプション装備であった「SOSコール」が標準装備に。この機能は軽自動車ではデイズとルークスのみが採用している装備だ。
再始動や加速時にモーターのパワーを使用するスマートシンプルハイブリッドを搭載し、発進時だけでなく、追い越し加速時でのスムーズさも魅力。燃費性能もWLTCモードで自然吸気車が21.2km/L、ターボ車が19.2km/L(共に2WD車)とクラストップ。スイッチひとつでパーキングブレーキを作動、解除可能な電動パーキングブレーキを採用しているのもプラス評価だ。
一方、マイナス評価の点は、走行時にリアの動きに不安定さを感じることだ。乗り心地が悪いというレベルではないが、走行中の揺れが大きめなのが気になる。そして、リアシートが分割してリクライニングはするが、スライドは一体式であることだ。その結果シートアレンジに制約がでてしまうのは惜しいと感じた。
構造用接着剤を採用したハスラーはボディの歪みを最小限に抑え走行安定性を獲得
続いては、スズキハスラー。
先代モデルはワゴンRをベースとしていたが、現行モデルは軽スーパーハイトワゴンのスペーシアをベースとしていて、室内空間はデイズを上回る。ところが走行安定性は抜群で、コーナリング時の揺れも小さく、リアのスタビリティもしっかりしている。これは後席に乗るとよくわかる。
室内空間が大きいにも関わらずボディがしっかりしているのは、ハスラーに採用されている構造用接着剤の効果が大きいから。高級車や輸入車では使用されているが、価格の安い軽自動車ではあまり使用されていない構造用接着剤をハスラーは採用し、ボディの歪みを最小限に抑えることで走行安定性を生み出しているのだ。
搭載するパワートレインは、ISGと呼ばれるモーター機能付き発電機と専用リチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドを全車に標準装備。その結果、スムーズな加速性能とWLTCモードで自然吸気車は25.0km/L、ターボ車は22.6km/L(ともに2WD車)という優れた燃費性能を発揮している。
運転支援システムでは、デュアルカメラブレーキサポートを搭載し、ターボ車にのみアダプティブクルーズコントロールが装備されている。さらにリアシートは分割スライド、リクライニングが可能で、ラゲージやリアシートの背面には汚れたや水分を拭き取りやすいという素材を採用。また、ボンネットフードの先端がドライバーから見えるデザインとなっており、取り回しがしやすく、インテリアデザインもSUVらしい遊び心があるのが特徴だ。
一方、ハスラーのマイナス評価としては、デイズが採用している電動パーキングブレーキではなく、足踏み式ブレーキであること。そしてエンジン音がやや大きめであることだ。耳障り……というほどではないが、デイズと比べると少々大きめの音だった。
2020年の軽自動車ベストチョイスは、スズキ・ハスラーに決定!
以上、デイズ、ハスラーの良い点、改善点を紹介してみたところで、いよいよ勝敗を決したいと思う。現在の軽自動車ベストチョイスはズバリ……ハスラーである!
足踏み式ブレーキのマイナスポイントは大きかったが、それをカバーしてなお余りある走行安定性は最大の魅力。現在人気の高いSUVということもあるし、実は見た目以上に本格的な悪路走破性も兼ね備えている。スズキ曰く、ワゴンR、スペーシア、ハスラーが販売の3本柱というだけあって、大ヒットした初代モデルを上回る質の高さが、2代目ハスラーで実現されているのだ。
軽スーパーハイトワゴンのリアスライドドアの利便性は、たしかに魅力である。しかし、購入して使っていけば、ハスラーのよさがジワジワと感じられる……と筆者は信じているのである。
(文=萩原文博/自動車ライター)