2020年2月の販売開始以降、登録車の新車販売台数ベスト5をキープしているのがホンダフィット。4代目となる現行型フィットは、歴代モデルが築き上げた優れた性能・機能をベースに、数値では表せない「安心感のある心地良い視界」「疲れにくい座り心地」「快適な乗り心地」、そして「快適な移動をサポートする使い心地」という4つの心地良さを提案している。最近は軽自動車のN-BOXのみが好調だったホンダにとって、今回のフルモデルチェンジ以降のフィットの好調は大きな安心となったはず。そんな大ヒット中のフィットの価格や装備面から、最もバリュー感の高いタイプ、そして買ってはいけないタイプはなんなのかをじっくり検証していきたい。
一番人気はハイブリッドの「ホーム」
現行型フィットは、従来モデルのような装備などの違いでグレードを設定するのではなく、ユーザーのライフスタイルやライフステージに合わせる形で、異なる個性の5タイプを設定。シンプルでレンタカー仕様ともいえる「ベーシック」をはじめ、生活になじむデザイン快適性を備えた「ホーム」、毎日をアクティブに過ごしたい人向けの「ネス」。そして週末に出掛けたくなるエンジョイライフに答えるクロスオーバーモデルの「クロスター」、洗練と上質を兼ね備えたスタイリッシュな「リュクス」の5タイプとなっている。
5タイプすべてに搭載されているパワートレインは、最高出力98ps最大トルク118Nmを発生する1.3L直列4気筒ガソリンエンジンと、最高出力98ps最大トルク127Nmを発生する1.5L直列4気筒ガソリンエンジンと駆動・発電用の2つのモーターを採用したe:HEV(イーエイチイーブイ)と呼ばれるハイブリッドシステム、の2種類。駆動方式は全グレードで2WD(FF)と4WDを用意している。また、先進の運転支援システム、ホンダセンシングは全車標準装備となっている。
販売開始1カ月後の受注状況では、パワートレインでは、ハイブリッド72%、ガソリン車28%。タイプ別では、「ベーシック」19%、「ホーム」47%、「ネス」6%、「クロスター」14%、「リュクス」14%で、ハイブリッド車の「ホーム」という組み合わせが一番人気で、ネスのガソリン車が最も人気のない組み合わせとなっている。それでは、価格と装備面などをじっくり比較してみよう。
ハイブリッドで「ベーシック」は199万7600円、最上級の「リュクス」は232万7600円
まず、パワートレインだが、やはりハイブリッド車にこそ購入する価値があるだろう。1.3Lのガソリン車とハイブリッド車では約35万円の価格差があるが、ハイブリッド車に搭載されているシステムはインサイトに搭載されているシステムに近く、モーターによる走行を積極的に行う。試乗した印象では、コンパクトカーとは思えないほど質感の高い走りを実現している。スムーズな加速と優れたハンドリング性能、揺れの少ない乗り心地は、国産車、いや同クラスの輸入車と比較しても決して引けを取らない。高い静粛性と優れた燃費性能が非常に魅力的なのだ。
パワートレインはハイブリッドと決まったので、次はタイプ選びをしてみよう。
購入する年齢層や家族構成などによって、当然求めるものが違ってくるだろう。大きなセダンなどからのダウンサイザーならば、本革シートを装着した小さな高級車といえる「リュクス」がベストグレードだろうし、流行しているSUVタイプが欲しいという人は「クロスター」一択だ。したがってここでは、最もフィットユーザー層で多いと思われる小さなお子さんがいるファミリーを想定してタイプ選びを行ってみたい。
2WD車の新車価格はe:HEVの「ベーシック」は199万7600円、売れ筋の「ホーム」が206万8000円、「ネス」が222万7500円、「クロスター」が228万8000円、そして「リュクス」が232万7600円で、4WDはすべて約20万円高となっている。
まず、いくら価格が安いとはいえ、給電用USBジャックなど利便性の高い装備が省かれた「ベーシック」は除外したい。売れ筋の「ホーム」は、本革巻きステアリングや本革巻きのセレクトレバー、プライムスムース×ナチュラルテキスタイルのコンビシートが装着されているのが特長だ。しかし、ホンダコネクトフォーギャザーズ+ナビ装着用スペシャルパッケージやシャークフィンアンテナがオプションとなっているうえ、標準装備となるホイールが15インチのスチールホイールとなってしまう。ナビを装着する際のオプション費用が高くなる上、走行安定性も16インチアルミホイール装着車と比べると若干差がある。
「ネス」は利便性の高い多くの装備が標準装備
ここで、「ホーム」より約16万円アップとなる「ネス」。上述の通り5タイプのなかで最も人気がないグレードなのだが、装備面で見ると16インチアルミホイールが標準装備となり、スタイリッシュなシャークフィンアンテナも採用されている。またナビを装着するときに必要なホンダコネクトフォーギャザーズ+ナビ用装着スペシャルパッケージも標準装備となる。その一方で、ステアリングやセレクトレバーは本革巻きでなくなっていて、シートもコンビシートから撥水加工の施されたファブリックシートに変更されている。今回想定するターゲットはお子さんのいるファミリー向けなので、やはり飲み物などをこぼすリスクが多く、撥水加工のシートはぜひとも欲しいアイテムだ。加えて、フルオートエアコンは、この「ネス」だけがプラズマクラスター機能を搭載している。
となると、「ホーム」と16万円差ではあるが、断然「ネス」のほうがバリュー感は高いということになる。今回撮影したe:HEVの「ホーム」はオプションのホンダコネクトフォーギャザーズ+ナビ装着用スペシャルパッケージ、16インチアルホイール、そしてコンフォートビューパッケージを装着しており、車両本体価格は222万7500円。コンフォートビューパッケージを除くと、「ネス」との価格差はほとんどなくなってくるのがわかるだろう。
「クロスター」はSUVテイストながら3ナンバーとなってしまう
SUVテイストの「クロスター」の車両本体価格は228万8000円。「ホーム」より+22万円、「ネス」より+6万500円となっている。ほかのタイプは5ナンバーサイズとなっているが、この「クロスター」は専用のボディパーツを装着しているので、唯一3ナンバーサイズとなる。SUVテイストをプラスしているものの、最低地上高は160mmと、「ホーム」よりわずか+25mmにとどまっており、SUVの“雰囲気”を味わえる仕様といえよう。シート表皮は「ネス」と同じ撥水加工を施したファブリックで、16インチアルミホイールが専用デザインとなる。専用のボディパーツでネスより+6万500円は魅力ではあるが、3ナンバーサイズとなるデメリットのほうが大きい。最小回転半径は同じでもボディ幅の+30mmはボディブローのように効いてくる。しかもルックスだけSUVで走行性能はほかとほぼ同じだということを考えると、個人的には手を出したくないグレードといえる。
「リュクス」は、高級車を離れたダウンサイザー向け
そして最後は、車両本体価格が最も高い「リュクス」だ。車両本体価格は232万7600円で、売れ筋の「ホーム」より約26万円高となる。フロントグリルモールディングがプラチナ調クロームメッキとなるのをはじめ、プラチナ調クロームメッキ・テールゲートロアーガーニッシュ、ドアロアーガーニッシュ、そして専用デザインの16インチホイールを装着し上質感溢れる外観となっている。インテリアでも、コンパクトカーではマツダ2ぐらいしか装着していない本革シートを標準装備しており、本革シートとアルミホイールだけでホームとの価格差が埋められてしまいそうだ。ただし、小さなお子さんのいるファミリーに本革シートをオススメする理由は見当たらない。やはりこの「リュクス」は、これまでは高級車に乗っていたが持て余すようになったような、ダウンサイザー向けといえる。
ファミリー層にとってベストバイは、実は「ネス」
こうして、5タイプを価格面と装備面で比べてみたが、「ベーシック」を除いた4グレードで、価格と装備面のバランスが最も優れているのは「ネス」という結論となった。お子さんのいる家族にとって撥水のファブリックは利便性が高いし、16インチホイールを装着することで、走りにしっかり感が出る。
その一方で、実はお買い得だとはあまり感じられないのが、売れ筋の「ホーム」。ホイールの件も大きいが、ナビゲーションを装着するためにはホンダコネクトフォーギャザーズ+ナビ装着用スペシャルパッケージも必要になるからだ。この2つを装着するだけでも、ネスとの価格差がかなり縮まってしまうのである。
オススメのグレードと買ってはいけないグレードが、実際の受注状況とは真逆の結果となってしまった。しかし今回はあくまでも、小さなお子さんがいるファミリー向けという設定。想定されるターゲットを変更すれば、オススメグレードは変わる可能性は当然あり得るのでご注意を。
(文=萩原文博/自動車ライター)