中古車に掘り出し物なし!
これが、中古車情報誌の編集部に約20年間籍を置いた筆者の考えである。新車と異なり、中古車は1台1台コンディションがさまざま。さらに、前オーナーの使い方やメンテナンスの頻度によってもクルマのコンディションに差が出てくる。したがって、価格の安い中古車には、安い理由が必ず存在する。
一方で、予想外の値上がりをする場合もある。その理由が「人気」というから始末が悪い。新車当時は人気がなかったのに生産終了となってからやおら人気となったトヨタ・AE86スプリンタートレノ、新車当時はトヨタ・ソアラに圧倒的な差を付けられていのに現在では高額取り引きされている日産レパード……等々、「人気」という不確定要素によって中古車価格は突然上昇することも。
さらに現在では、国産車の人気もグローバル化し、北米や東南アジアからの需要の高まりによって、1990年代のスポーツカーが軒並み高額となっている。
人気者がなぜかヤフオク!で安く落札できてしまうことも
さて、中古車といえば以前は、実店舗を持つ中古車専門の販売店で購入するのが一般的だったが、昨今はヤフオク!をはじめとする個人間売買も盛んになっている。「中古車選びは販売店選び」ともいわれるように、価格だけに惑わされてシロウトが個人売買に手を出すと、冒頭で述べた通り、前オーナーのメンテナンス不足によって、結局購入後数カ月で修理費用がウン十万に積み上がり……といったことも珍しくはない。
とはいえ、それでもやはりヤフオク!等での個人間売買の最大の魅力はやはりその安さ。しかも、先述したような「人気」要素がなぜか価格に反映されないままオークションが終了し、欲しかった人気中古車が思わぬ安値でゲットできてしまうこともないではない。
そこで今回は、ヤフオク!等で出品されている隠れた名車・珍車を5台選んでみたので紹介してみよう。
話題のタフトのルーツ車か? ネイキッド(ダイハツ、1999年〜2004年)
まずは、ダイハツ・ネイキッド。ネイキッドは1998年の軽自動車の規格変更直後の1999年から2004年まで販売された軽自動車だ。この6月から同じダイハツよりタフトが発売され話題を呼んでいるが、個人的に筆者は、そのルーツはネイキッドではないかと考えている。
ネイキッドの特徴は、フロントバンパーやグリルが外側からボルト留めされる形状となっており、ユーザーの好みに合わせて自由にコーディネートできたこと。これは、現行型コペンが採用しているドレスフォーメーションのルーツともいえる。また、豊富に用意されたオプションによってさまざまなカスタマイズも可能で、造り上げる楽しさにあふれていた。が、このコンセプトは残念ながら当時はあまり受け入れられず、ネイキッドは1代限りで生産終了となってしまった。
しかし、無印良品のようなシンプルさとSUVライクな車両デザインを愛するユーザーも多く、上記のカスタマイズパーツなどもヤフオク!では盛んに取り引きされている。車両本体もヤフオクには10月20日現在38台出品されており、価格のほうも8万~34万円と比較的リーズナブル。もちろんその大半が10万キロ超の走行距離となっているが、現代車のような電子パーツだらけの時代のクルマではないので、丁寧にメンテナンスすればまだまだ乗り続けられるのではないだろうか。
走りの良さを追求したローフォルム ソニカ(ダイハツ、2006〜2009年)
続いてもダイハツからピックアップしたソニカだ。ソニカは、2006年から2009年のわずか3年間しか販売されなかった悲運のモデル。スズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーヴといった背の高いハイトワゴンが軽自動車の主流となっていた時代に、走りの良さを追求したローフォルムのモデルだった。
全グレードにパワフルなターボエンジンを搭載し、軽自動車としては珍しく前後に走行安定性を向上させるスタビライザーを装着(4WD車はフロントのみ)し、走りの質にこだわったモデルだった。さらにドアやミラーの形状を工夫することで、風切り音などのノイズの大幅低下に成功。またシート形状にもこだわり、身体のホールド性も高かった。
このように質感にこだわったソニカだったが、軽自動車ユーザーのほとんどは室内の広さを重要視していたので、販売が振るわず1代限りで生産終了となってしまった。2000年に販売終了していたアルトワークスがもし現役で存在したならば、ソニカももう少し延命できたのではないかと思われるが……。
10月22日現在、ソニカはヤフオク!に20台出品されていて、価格は1万円~54万円となっている。ターボ付きの軽がヒトケタ万円で購入できるのであれば、日常の足としてはいうことなしではなかろうか。
超コンパクトボディのシティコミューター ツイン(スズキ、2003〜2005年)
ここまではダイハツから2車種を紹介したが、軽自動車市場でダイハツのライバルであるスズキからは、ツインを紹介したい。「そんな名前のクルマ聞いたことない!」という方も多かろう、なにせ2003年から2005年のわずか2年間しか販売されなかったモデルなのだ。
ツインという名の示す通り、2人乗りで全長は2735mmという超コンパクトボディのシティコミューター。しかしツインの名車たるゆえんは、そのコンパクトサイズのボディのみにはあらず。ガソリン車だけでなく、なんとこの時代にハイブリッド車まで用意されていたスズキの力作なのである。現在であれば高齢者などのコミューターとして大活躍しそうだが、やはり2003年というのは登場するのが早すぎた。しかもハイブリッド車は129万円と、当時の軽自動車の感覚でいえば高額だったことも普及しなかった要因だろうだろう。
そんなツインも10月20日現在、ヤフオク!には23台も出展されており、7万円~55万円となっている。しかしすべてガソリン車で、ハイブリッド車はない……。安全装備などは現在のクルマと比較すればどうしても見劣りするが、このコンパクトさは確かに魅力。買い物の足として割り切るならば、大いに買いだ。
伝説のスバル360の再来 R1(スバル、2005〜2010年)
スバルというと今や「ぶつからないクルマ」のアイサイトが有名で、現在は普通車しか生産していない。しかしかつてはスバル360をはじめ、軽自動車も普通に生産していた。かつてスバルの軽自動車は、サスペンションに四輪独立懸架を採用など、ほかの軽自動車とは一線を画した走行性能を実現していたのだ。現在でも、走行性能にこだわるユーザーはスバルが生産していた軽自動車を中古で買い求めるほどだという。
そんなスバルが生産した“軽自動車遺産”のひとつが、今回紹介するR1。今は「R1」というとヨーグルトかもしれないが、このR1が2005年に登場した時には、「伝説のスバル360の再来」などともてはやされ、「NEWてんとう虫」などと騒がれた。先に紹介したツインほどではないが、全長3285mmとコンパクトなボディで、ドアは2枚。乗車定員は4名となってはいるものの、リアシートは荷物置き場と割り切ったほうがよさそうな広さだ。
2003年の東京されたモーターショーでは電気モーターのコンセプトカーが展示されたり、その翌年には介護車両が出展されたりと、将来的にはシティコミューターとして活躍する未来像が描かれていたR1。しかし、残念ながら2010年に販売終了となり、かつて描かれた“輝かしい未来”は実現しなかった。
しかし、スバルクオリティと称された四輪独立サスペションなどによってもたらされた走行性能は、軽自動車の域を軽く超えていたのは事実。10月20日現在、ヤフオク!にR1は22台が出品されており、価格は1万円~90万円と幅広い。20万円くらいで購入し、サラッと乗り回すのがシブイかも。
世界初のセダン型の燃料電池車がこの価格で ミライ(トヨタ、2014年〜)
そして最後に紹介するのが、トヨタ・ミライ。この12月に初のフルモデルチェンジを行うこの近未来車に、「安く買えるお買い得中古車」のイメージは微塵もないかもしれないが……。
2014年に登場したミライは、量産車としては世界初のセダン型の燃料電池車。水素を燃料として使用し、化学反応によって発生させた電気エネルギーによってモーターを駆動させるという最先端のクルマだ。しかも、これまで紹介したクルマとは異なり、先進の運転支援システムが装備されている。ゆえにデビュー当時の販売価格は723万6000円だった。ところが10月20日現在、ミライの中古車はヤフオク!に7台が出品されており、その価格はなんと148万~295万円。軽自動車の新車と同程度の価格で、最新のFCHVが手に入るのだ! 現状、燃料となる水素のステーションがまだあまり整備されていないので注意したいところだが……。
「これ水素で走るんだぜ」と胸を張れる未来のクルマ、ミライが150万円で入手できるのは、まさにオークションならではの醍醐味といえよう。
安く買えるとはいえ、数十万円規模の出費を伴う高い買い物であることは確か。ゆえにオークションでは、気になる部分は事前に問い合わせるなどして、疑問はしっかりと解消しておきたい。そうした点に留意しつつ、良質なクルマを安くゲットしていただきたい。
(文=萩原文博/自動車ライター)