ライバル車を足して2で割ったような新型タフト、ダイハツの商品企画は大丈夫なのか?
6月10日、ダイハツは新型クロスオーバーの「タフト(TAFT)」を発売した。“Tough & Almighty Fun Tool”をキーワードに、「日常からレジャーシーンまで大活躍、毎日を楽しくしてくれる頼れる相棒」をコンセプトとしたニューモデルである。
けれども、このタフトを見て、なるほどまったく新しいカタチの新ジャンルカーだな、と思う方はそう多くはないのではないか? 少しクルマに興味のある方なら、これはスズキの「ジムニー」を参考にしたデザインか、あるいは同社の「ハスラー」の対抗だろう、などと感じるはずだ。
実際、自動車雑誌などではその両車との比較試乗記事が展開されていて、クロスオーバー車としてはハスラー以上ジムニー以下、なんて結論が書かれたりしている。それが的確かどうかはともかく、ここで感じるのは、以前「タント」のときにも書いたように、最近のダイハツの商品企画に対する疑問である。
知られたところでは「ワゴンR」に対する「ムーヴ」、「アルトラパン」に対する「ミラココア」など、わりと以前からスズキの後追い商品が散見されたダイハツだけど、ここに来て、そこへ一種の「軽さ」のようなものが加わってきたようで、それがどうにも気になるのだ。
たとえば「キャスト」。ムーヴ同様のトールワゴンとして、1台でスタイル、アクティバ、スポーツと3つの顔を持たせたのが特徴だが、スタイルは自社の「ミラジーノ」の後継を思わせる一方、アクティバはライバルのハスラー、そしてスポーツは同じく「アルトワークス」への対抗を感じさせた。
この「1台で3つの役割」というのがとにかく安易で軽い。実際、同じボディでも、飾り付けの違いで3パターンくらい簡単にできるという発想はユーザーに見抜かれ、今年の3月にはアクティバとスポーツが、カタログから静かに消えていったのである。
また、女性スタッフによる企画を前面に出した「ミラトコット」もなかなかに軽い。開発主査は決して女子向けではない性差を越えた魅力があると語ったが、結局その雑貨のような佇まいはどっち付かずの結果を招き、早くも影の薄い存在になりつつある。
そして名車の呼び声も高かった初代コペンは、2代目で「着せ替え」という安易な発想を持ち込んで基本の美しさを失い、慌ててバリエーションを増やすという本末転倒な施策に出るものの、もはや泣かず飛ばずの状況だ。
さらに新型タントでは、突然「良品廉価」なる発想を打ち出し、従来同車が持っていた高品質感をあっさり捨ててしまった。クオリティや装備までを省略して低価格にシフトしたタントは、新型でありながら販売に従来のような勢いはない。
一発屋で終わらない、本物のオリジナリティを!
そこに、ライバルを足して2で割ったようなタフトである。いくら屋根一面のガラスが開放感と非日常感をもたらすと言っても、しょせんは部分の話で全体の個性にはならない。もちろん、本格四駆の初代とはまったくの別物だ。
まあ、あまりに独創的なスズキと比べるのは酷とはいえ、それにしても最近のダイハツは商品企画の詰めが甘い。ポッとつくってはすぐに記憶から消えていくような展開が多過ぎるのだ。
それが、トヨタの完全子会社化による影響なのか、単に商品企画チームの力不足なのかはわからない。ただ、単発で消えつつも「ストーリア」や「YRV」「ネイキッド」「エッセ」など、過去には独自性を持つクルマを出しているし、先のタントはいちジャンルを確立した。つまりポテンシャル自体は持っているんである。
その点、いいとこ取りのタフトは安全パイなのかもしれないけれど、少なくとも新しいジャンルを築くようなオリジナリティは持っていない。だから、メーカーとしてのポテンシャルと商品企画のちょっとしたズレを、いまいちど見直すのがダイハツの急務だと筆者は思う。
(文=すぎもと たかよし/サラリーマン自動車ライター)