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日立製作所、華麗なる選択と集中の裏で…日立金属は3千人削減、紛糾する日立建機売却問題

文=編集部
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日立製作所のロゴ(「wikipedia」より/Gnsin)

 日立製作所の上場子会社の整理は最終局面を迎えた。日立金属売却の入札手続きに入り、アポロ・グローバル・マネジメント、カーライル・グループ、コールバーグ・クラビス・ロバーツ、ベインキャピタルなど複数の米大手投資ファンドが応札を検討している。

 日立は現在、日立金属の約53%の株式を持つ。一次入札で売却先を絞り、二次入札に進む見通しだ。時価総額は6000億円規模のため、売却額が3000億円超になるのは確実で企業連合による買収の可能性が取り沙汰されている。2013年に日立電線を吸収合併している。特殊鋼と電線を別々に売ることも考えられた。高級特殊鋼は日本製鉄、JFEホールディングス、電線事業は電線御三家の住友電気工業、古河電気工業、フジクラのいずれかだろうといわれた時期もあった。

 日立はIoT(モノのインターネット)との関連性を重視して事業の選択と集中を進めている。日立金属の強みとされる自動車や航空機向けの特殊鋼などは相乗効果が薄いと判断した。日立金属は防衛装備関連の部材を扱い、電気自動車(EV)モーターの基幹部品となるネオジム磁石の世界的な大手だ。数百件もの特許を押さえており、経済産業省は重要技術の海外への流出を強く懸念している。

 官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)や総合商社が一部出資し、こうした懸念に配慮する案も出ているとされる。

日立金属は大リストラと売却が同時進行

 日立金属では今年4月、大規模な検査不正が発覚。特別調査委員会が調査を進めている。検査不正の調査と売却の準備が同時進行していることを疑問視する声が出ているのは確かだ。不正を調査中ということが売却価格を引き下げる要因になる。株主の利益を害する恐れがあるからだ。検査不正問題の詳細や改善策は、12月に予定している調査委員会の最終報告に基づいて公表する。売却交渉が決着するのは、その後になるとみられている。

 日立金属の21年3月期の連結決算(国際会計基準)の売上収益は前期比18.3%減の7200億円を見込む。日立グループの利益指標である調整後営業利益は140億円の赤字(前期は143億円の黒字)、最終損益も460億円の赤字(同376億円の赤字)になる見込み。新型コロナの感染拡大で航空機関連部材の需要が減った。

 10月27日、22年3月期末までに日立金属グループ全体の従業員数の約1割を削減すると発表した。20年3月末時点の従業員数は3万5400人だが、早期退職募集などにより3200人の従業員を減らす。支社、支店のオフィス面積も3分の1に縮小する。

 同日、コロナ禍の情勢を踏まえ、23年3月期までの新たな中期経営計画を公表した。低迷している鋳物や磁石事業などの生産拠点を再編する。特殊鋼分野でのM&A(合併・買収)を実施し、調整後営業利益を20年3月期の4.9倍の700億円に引き上げる計画だが、売却先が決まれば中期経営計画は練り直されるか、白紙に戻されることとなろう。

日立建機の日立ブランド

 日立日立建機株の約51%を保有。「このうち約半分を売却する意向で、親子関係を解消する」(日立グループの役員)。「JICが出資を検討」と報じられたが、日立建機のフィナンシャルアドバイザーが「JICと組んで日立建機を買いませんか、とオファーしまくっている」(M&Aに詳しいアナリスト)との証言もある。「日本産業パートナーズ(JIP)が受け皿になる」(外資系証券会社のアナリスト)との見方も浮上している。

 日立建機には金属とは大きく異なる事情がある。建機は日立が注力する独自のIoT基盤「ルマーダ」を活用した大型建機の自動運転システムを手がける。「建機の株を手放すにあたって取締役会で激論が交わされた。執行側が進めようとする建機の売却に外国人の社外取締役らが再三、反対の意向を示し、紛糾した」(日立の幹部)と伝わる。

 日立が成長エンジンと位置づけるIoTと建機のシナジー効果が大きいからである。19年度の日立グループのルマーダ関連の売り上げ(約1兆円)のうち、2割は建機によるものだ。日立の取締役会の13人のメンバーのうち、執行を兼任しているのは東原敏昭社長と中西宏明会長だけ。大半を占める社外取締役の意向は無視できない。

「日立本体との相乗効果が見込めることから日立は一定の建機株を残し、協業関係維持することで決着した。親子上場は解消するが当面はグループ会社として日立のブランドを使い、グローバル市場で成長戦略を進めていく」(前出の日立グループ役員)

 当初、コマツと米キャタピラーの世界の2大建機メーカーが売却先といわれたが、「日立ブランドが存続するため、この線は消えた」(M&Aに詳しいアナリスト)。

 日立には09年時点で22社の上場子会社があった。リーマン・ショック後の09年3月期に7873億円の巨額最終赤字を計上。存亡の危機に立たされたのを機に「あらゆる場面で子会社の資本構成を見直す」(東原社長)ことになった。コーポレートガバナンス(企業統治)強化を求める市場からの圧力を背景に、中期経営計画が終了する21年度末(22年3月期末)までに上場子会社について、本体に取り込むか、売却するかを決める。

 4月には日立グループの御三家の一角だった日立化成(現・昭和電工マテリアルズ)を昭和電工に売却。他方、検査機器などを手がける日立ハイテクは5月に完全子会社として取り込んだ。残る上場子会社は日立建機日立金属の2社だけとなり、売却先が決定すれば日立が10年間にわたって取り組んできた上場子会社の整理、構造改革が完了する。

 ただ、日立金属は日立グループの創業企業である。鮎川義介氏が1910(明治43)年、戸畑鋳物(現在の日立金属)を創設。これが日立グループの発祥で、ここから、日産自動車や日立製作所など日産・日立グループへと発展した。発祥企業である日立金属を売却するということは、トヨタ自動車が、トヨタグループの業祖・豊田佐吉翁が創設した豊田自動織機を売るようなものだ、という声もグループ内からは聞こえてくる。

「経団連会長を出している日立は、それほど(先行きの業績が)厳しいのか」(経団連副会長を出している企業のトップ)。産業・経済界は厳しい現実を思い知らされることとなった。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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