東京商工リサーチは、開示された20年3月期の有価証券報告書から各社の役員報酬を集計し、公表した。20年3月期に役員報酬で1億円以上の「1億円プレーヤー」を開示した企業は255社で前年の281社から26社減った。日本人役員では、役員退職慰労金(引当金繰入額を含む)で多額の報酬を得る一方、外国人役員は賞与や業績連動報酬のほか、ストックオプションなど非金銭報酬で多額の報酬を得るケースが目立つ。ただ、最近は退職慰労金を廃止する企業も増え、報酬体系は業績連動などに移行しつつある。報酬体系が業績連動になったことで、1億円プレーヤーの人数は大きく変わる。
日立製作所の「1億円プレーヤー」は18人と最多で、前年より1人増えた。日立の対象となる役員数は取締役・社外取締役を合わせて46人。報酬総額は49億5700万円。このうち固定報酬は21億300万円で4割強。6割強が短期インセンティブと中長期インセンティブ報酬である。
短期インセンティブ報酬は役位に応じて基準額を定め、担当業務の成果に応じて支給される。中長期インセンティブ報酬は、会社の業績評価に基づき、譲渡制限付き株式を付与する。東原敏昭社長は固定報酬1億4800万円、短期が1億5000万円、長期が1億9700万円の合計4億9500万円だった。
業績が悪ければ当然、変動報酬はなくなる。野村ホールディングスは「1億円プレーヤー」が前年の1人から7人に増えた。19年3月期は1004億円の最終赤字を出したため変動報酬が支給されなかったことが響いた。昨年、唯一の1億円プレーヤーだった永井浩二取締役会長は、前年の役員報酬1億1900万円が、今年は4億2200万円と3.5倍となった。変動報酬が支給されたからだ。
対照的なのが三菱電機。前年の1億円プレーヤーは21人で最多。14年3月期から6年連続でトップを守ってきた。今年は、わずか1人。三菱電機の20年3月期の営業利益は10.6%減った。そのため業績に連動する報酬が減額になったためだ。杉山武史社長は、前年の役員報酬2億4000万円が今年は1億7000万円に7000万円減った。
総合商社、銀行
商社業界の報酬体系は業績連動型である。商社で1億円プレーヤーのトップは伊藤忠商事の岡藤正広会長。役員報酬6億3200万円のうち月例報酬は1億5300万円で4分の1弱にとどまる。業績連動型賞与が3億5100万円、株価連動型賞与が3000万円、特別慰労一時金5000万円、株式報酬4900万円。業績連動型賞与が55%と半分以上を占める。
商社2位の三菱商事の垣内威彦社長は、役員報酬5億3100万円のうち取締役報酬は1億2100万円で2割強。積立型退任時報酬が3900万円、加算報酬が7800万円、業績連動報酬(短期)が5800万円、業績連動賞与(中長期)5800万円、中長期株価連動型株式報酬が1億7400万円だ。退職積立を除いた業績連動型報酬が7割にのぼる。
商社3位の三井物産の安永竜夫社長は、役員報酬3億900万円のうち基本報酬が1億3100万円と42%を占める。総合商社3社のなかではもっとも高い。賞与が7900万円、株式報酬が9800万円だ。
銀行は1億円プレーヤートップは三菱UFJ銀行の三毛兼承頭取。役員報酬2億1500万円のうち、三菱UFJフィナンシャル・グループと三菱UFJ銀行の基本報酬が8200万円で4割弱。他は、株式報酬と役員報酬。
三井住友銀行の高島誠頭取は役員報酬1億5000万円のうち三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行の基本報酬が9000万円と6割を占める。4割が株式報酬と役員賞与だ。みずほフィナンシャルグループには1億円プレーヤーはいなかった。
21年3月期は新型コロナの影響で減益・赤字に転落する企業が続出する。業績連動型の報酬体系をとっている企業では「1億円プレーヤー」がかなり姿を消すことになりそうだ。
(文=編集部)