もはやその名を知らない人はいないであろう、世界でトップクラスのIT企業グーグル。そんな同社が提供している無料のウェブメールサービス「Gmail」のロゴデザインが今年10月、白い封筒の上に赤くMと描かれたものから、青、赤、黄、緑の4色でMが描かれたものへと変更されたことが、にわかに話題となった。
デザイン変更のきっかけは、ビジネスに役立つグーグルのアプリケーションが利用できるグループウェア「G Suite」が、「Google Workspace」へとリニューアルされたことにある。Gmailのほかにも、G Suiteに含まれていたいくつかのアプリケーションのロゴデザインが変更になったようだ。
ビジネスやプライベートなど、さまざまな場面で日常的に利用されているGmail。アメリカのリターンパス社が行ったウェブメールクライアント別の利用調査によると、2012年には6%だったシェアが、17年では59%にまで伸びたのだという。
Gmailがここまで多くの人々に利用されている理由は、いったいどこにあるのだろうか。ブロガー、ライター、アドバイザーのいしたにまさき氏に話を聞いた。
シェア急拡大の理由はスマホユーザーの増加にあり
Gmailは04年の4月1日にベータ版をリリース。それから16年以上にわたって世界中の人々に利用され続けている。では、それまではどんなメールクライアントが使われ、どのようにしてGmailが登場したのだろうか。
「Gmailが生まれる以前のメールクライアントとしてはYahoo!メールと、マイクロソフトが提供しているOutlook(旧Hotmail)の利用者が多かったです。このふたつのサービスは大手が運営していて安心感があるということから、今も昔も高いシェア率を誇っていますね。
そんななかGmailは、当時グーグルに存在した、社員は業務時間の20%を取り組みたい仕事に費やしていいという“20%ルール”のなかで誕生しました。社員のアイデアから生み出されたGmailが今や検索サービス、Googleマップに次ぐグーグルの代表的なサービスになっているというわけです」(いしたに氏)
そんなGmailが12年から17年の5年間でシェアを急増させた要因は、スマートフォンの普及にあるという。
「スマホはそれまでの携帯電話と違い、小さなパソコンのようなもの。そのため、パソコンと同じメールサービスのほうが使い勝手が良いですし、パソコンのほうで使っているアカウントを設定すれば、フィルターやフォルダ分けなどをスマホ側でやり直す必要もないわけです。特にグーグルが開発したOS、Androidのスマホからなら、Gmailがメール設定をするのには一番簡単なので、Androidユーザーの増加とともに自然とGmailユーザーも増えていきました。
また、現在のグーグルアカウントはGoogleマップやYouTubeなど、グーグルが提供しているさまざまなサービスと紐づいているので、ほかのサービスの利用がきっかけでGmailを使うようになった方も多いと考えられますね」(いしたに氏)
Gmailが起こしたインターネットサービス界の大革命
いしたに氏によれば、Gmailの登場以前・以降でインターネットサービスが分けられるほど、Gmailは革命的なサービスだったのだそうだ。
「Gmailは、ページを表示している裏側で次に表示されるであろうデータを先読みして呼び出すAjax(エイジャックス)という技術を、何千万人以上が使うサービスで大々的に取り入れた初めてのサービスといわれています。
Gmail以前のウェブメールは書いたメールをいちいち保存する必要があり、間違って戻るボタンなど押したら画面が戻って文章が消えてしまうなどの不都合な点が多く、便利だけど使いにくいということが当たり前でした。しかし、GmailはAjaxによってメールの自動保存や送信の取り消しなど、これまでのウェブメールにはない画期的な機能を実現させていったんです。メールの検索が速かったのも、さすがGoogleという感じでした。
ブラウザ上で簡単に使うことができて、利便性や検索性にも優れているので、もはやほかのメールソフトなどを使う選択肢がないくらいにGmailは便利なサービスになっていますね」(いしたに氏)
AjaxはGoogleマップにも導入されており、画面上に地図を出しながら自動的に次に表示すると予測される場所のデータを読み込み、スムーズにスクロールできるようになっているという。
また、今後Gmailはグーグルが提供するビジネスツールのハブのような役割を担っていくのではないかと、いしたに氏は予想する。
「グーグルは、他社を買収して得たものも含め新たなサービスを五月雨式に提供しています。ですがそのため、たとえば今の時点ではまだ、Googleマップで入れた予定がほかの予定と重なっていないか確認するために、わざわざGoogleカレンダーを開く必要があるなど、全サービスを一括で見ることができる画面がないんですよね。
そういう不便さを解消するために、Google WorkspaceではGmailを中心として、バラバラだったサービスの連携を強めていく指針を発表しています。ビデオ会議ツールのGoogle Meetを使用した会議の予定がGoogleカレンダーと紐づき、会議の案内をGmailで送るといったように、最終的にはひとつの大きなサービスに見えるような形を目指していくのではないでしょうか。
そのため、これからGmailは新しいものを足していくというよりは、コミュニケーションに関わるほかのサービスと有機的に結びついて、より利便性を高めるという方向で進化していくと思います」(いしたに氏)
グーグルという企業独自の文化のなかから生み出され、今となってはあって当たり前となった数々の機能を導入したGmail。まさしく、ウェブメールの新たな常識を築き上げたサービスといっても過言ではない。これからもアップデートを続け、何気ない日常のやり取りやビジネスシーンをより快適なものへと変えていってくれるだろう。
(文=佐久間翔大/A4studio)