ビジネス街の書店前を通ったときのこと、店頭で古地図関連の書籍を大々的にアピールしていた。ちょうど昼休みの時間だったこともあり、多くのビジネスパーソンが足を止め、興味深そうに本を物色していた。
このような光景が見られるようになったのは、「古地図」ブームの影響にほかならない。江戸時代やさらに過去の地図を見ながら、街歩きを楽しむことが注目されている。
古地図には現在とは異なる地形などが描かれていて、当時の様子を読み解くことができる。しかし、古地図に関する知識がないと、本当の意味では楽しめないかもしれない。
そこで人気を集めているのが、「古地図ウォーキング」だ。専門家とともに古地図を持って街を歩き、地図の読み方や当時の生活、地理の変化などを教えてくれるという。
実際に古地図ツアーを扱う阪急交通社では、2016年9月に東京で「江戸ぶらり古地図ウォーキング」をスタート。これが好評で、現在は大阪、京都、名古屋、福岡など、各都市で実施しているという。
「参加者の多くはシニア層で、男性も女性もおひとりで参加される方が多いです」(阪急交通社)
同社のプランは1日、つまり日帰りで参加できるコースとなっている。中山道の板橋宿を歩くプランを例にすると、朝9時30分にJR板橋駅に集合し、近藤勇の墓や縁切り榎、板橋宿本陣跡碑などをめぐり、12時30分ごろ解散予定。総距離は約3.5kmとなっている。
このツアーでは、その街の古地図が配られ、同行の専門ガイドがともに歩きながら解説してくれるという。
参加者からは、「普段見慣れた街でも、古地図を持ってガイドの解説を聞きながら歩けば、タイムスリップをしたような感覚を味わえる」との感想も寄せられているそうだ。
「ツアーはシリーズで展開していますが、テーマは1回ごとに完結します。お好みの回をピックアップしていろいろな街をウォーキングできるとあって、リピーターが多いことも特徴です」(同)
古地図を読み解くことで知的好奇心が満たされ、街の歴史を知ることで新たな魅力を発見できる。さらに、歩くことは健康にもよいため、シニア層に人気があるのもうなずける。
筆者は以前、古地図関連の仕事を手伝ったことがあるが、筆で描かれたものや、「江戸切絵図」といわれる区画に分けてつくられた地図など、時代や地区によっても作風が異なるのが印象的だった。芸術品として鑑賞するのもおもしろい。
特に東京は、昔とはまったく異なる姿が古地図に表れている。今でこそビルが立ち並ぶが、江戸時代には表参道ヒルズの近くにため池があったり山が見られたりと、現代では想像できない姿がそこにある。
古地図を見ながら街を歩けば、その場で現代の風景との対比が可能だ。なおかつ、時代の流れにロマンが感じられる。これこそ、古地図ウォーキングの醍醐味かもしれない。
(文=OFFICE-SANGA)