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「ポスト宮崎駿」ついに登場? 元ジブリスタッフの『メアリと魔女の花』の出来栄えは

文=増當竜也
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1707_mary550.jpg『メアリと魔女の花』公式サイトより

 映画『千と千尋の神隠し』(2001年)が国内の歴代映画興収記録第1位の304億円を計上するなど、アニメーション&実写を問わず日本映画界のトップとして君臨し続けてきたスタジオジブリが14年の暮れに制作部門を休止し、同部門スタッフ全員を退職させてから早2年半経つ。

 ジブリそのものは、宮崎駿監督が久々の新作に着手することを今年5月に発表し、現在制作部門の活動再開及び新人スタッフを募集中だが、『借りぐらしのアリエッティ』(10年)および旧ジブリ・スタッフによる最後の作品『思い出のマーニー』(14年)を発表してきた米林宏昌監督は、プロデューサーの西村義明とともに15年にスタジオポノックを設立した。

 そのスタジオポノック第1回作品が8日公開の『メアリと魔女の花』である。

 これまでスタジオジブリ作品は、そのブランドによって常に大ヒットを飛ばしてきたわけだが、そこから巣立った者たちが今回、新たなスタジオで質的にも興行的にも新機軸を打ち立てるだけの作品をつくることができるか否か。大いに注目を集めているところだが、結論から申すと巧みにジブリ・ブランドを受け継いだ万民向けのエンタテインメントとして本作を成立させている。

 メアリー・スチュアートの“The Little Broomstick”を原作に米林監督自身が脚色、それまでジブリ作品を支えてきたスタッフの多くが制作に携わっている本作は、良い意味でかつてのジブリ作品(もしくは宮崎駿&高畑勲監督作品)のいいとこ取りといった要素満載である。

 主人公は田舎に越してきたばかりの11歳の少女メアリ(演:杉咲花)。赤毛でそばかすといった風貌は、どことなく高畑勲監督の名作TVアニメ『赤毛のアン』(1979年)を彷彿させるものがあるが、特にこれといって際立った個性もうかがえない、どこにでもいる普通の少女が、ふとしたことから魔法の力を手に入れて、雲海にそびえたつ魔女の国に迷い込み、そこであれよあれよの大冒険という基本設定は、『千と千尋の神隠し』とも相似している。

 魔女の国ときたら、魔法のホウキで空を飛ぶというのが定番で、ここではメアリがホウキに乗ってこちらの世界とあちらの世界を行き来することになるが、そこで『魔女の宅急便』(89年)を連想するジブリファンも多いことだろう。

 魔女の国のエンドア大学校長マダム・マンブルチューク(演:天海祐希)の存在感は、『千と千尋の神隠し』の人気キャラ湯婆婆にも匹敵するもので、その横で腰ぎんちゃく的にふるまうドクター・ディ(演:小日向文世)は『風の谷のナウシカ』(84年)のクロトワのようであるが、両者の雰囲気はむしろ『天空の城ラピュタ』(86年)の女盗賊ドーラとその息子たちといったコミカルなテイストである。

 メアリとともに冒険を強いられてしまう少年ピーター(演:神木隆之介)は、その神木がかつて声を演じた『千と千尋の神隠し』のハクや、高畑&宮崎コンビの金字塔たるTVアニメ・シリーズ『アルプスの少女ハイジ』(74年)のペーター、または『風の谷のナウシカ』のアスベルといったスタンスにも思えてならない。

 もちろんこういった設定などはファンタジーの定石みたいなものではあるのだが、本作はその定石から逸脱することなく、むしろ丁寧にそれらを網羅しつつ前向きに対処しながら、オーソドックスにドラマが展開されていく。

 作画も旧ジブリ・スタッフが結集しているだけあって、ハイクオリティのものであるのは当然として、やはりその絵柄が往年のジブリ作品を思い起こさせてくれる。

 さほど映画業界の事情に詳しくない観客のほとんどは、本作をスタジオジブリの新作と勘違いしてしまうのではないか?

 つまり本作の長所は、従来のジブリ作品と見まがうほどの質と内容を保持しているところにある。

 さすがに宮崎駿監督ならではの秀逸な飛空シーンの数々に対しては見劣りするところもあるが、そこは比べるのが酷というものだろう。

 そもそも、これまでの米林監督作品は少女を主人公にしながらも「動」よりも「静」の魅力に重心を傾けてきており、その点、宮崎監督が「静」を描こうとしても最終的にはダイナミック極まりない「動」へ行きついてしまうのと対照的なのだが、今回はあえて師匠である宮崎作品の世界観やらタッチなどを意識しながら取り組んでいった感もあり、しかしながら一方ではその中からあちこちに米林監督らしい繊細な心の動きなどの演出などがきちんとうかがえるのが頼もしい。

 興行的にも、まだ実績がないスタジオポノックの第1回作品として、東宝という国内最大の配給網の中で成功を収めないといけない使命感として、今回の題材は老若男女が接するファンタジーとしてまっとうすぎるくらいのものに成り得ており、これならば売る側も幅広い層に安心してアピールできることだろう。

 実際のところ、現在の国産アニメーション映画のクオリティはどんどん上がってきており、なかには昨年の『君の名は。』や『この世界の片隅に』のようにメジャー・シーンへ一気に躍り出る意欲作も増えてきているが、本作の場合、ジブリから巣立った者たちの新たなスタートとしての瑞々しさと、そのジブリで鍛えられてきた熟練の技術とが融合した心地よい作品として、他の追随を許さないものがある。

 まだまだスタジオジブリ神話は続きそうな気配ではあるのだが、いずれはそれを凌駕する作品も登場してくることだろう。それを成し得るのはスタジオポノックなのか、他のスタジオ&人材なのか、おもしろい時代になってきたものだなと思う。
(文=増當竜也)

増當竜也

増當竜也

鹿児島県出身。朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、1998年よりフリーの映画文筆業に就く。

Twitter:@shadowlands1993

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